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ボルダリングジムを開業したら初年度の利益がマイナス38万円だった話

割引あり

はじめに

こんにちは『ボルダリングジムFRICTION FREAKS』代表のけんけんです。
(このnoteを読まれているということはほぼ僕のXアカウントのフォロワーさんだと思うので、はじめましての挨拶は割愛)

今回、表題の通りボルダリングジム開業にまつわる(主にお金の)話を書いていきたいと思う。

通して読んでいただくと

・田舎で小規模なボルダリングジムを開業するのに必要な資金
・期待できる売上額
・人は見積もりを途方もなく間違ってしまう

ということが大体ご理解いただけるかと思う。

そのあたりに興味がある方は読み進めていただきたい。

ボルダリングに関する専門用語などを特に注釈無く書いていくので、クライミング業界に全く馴染みがない方には意味の分からない部分も出てくると思うが、どうせこの記事を読む方は僕のXアカ(以下略 なので気にせず書いていく。

無料部分だけでも大体の経緯は追えるように書くが、有料部分に事業計画書の抜粋やら2023年度の損益計算書やらをガッツリ掲載して数字を赤裸々に解説していくつもりなので、気になった方は是非購読していただきたい。

開業決意までの経緯

ボルダリングをはじめて以来「自分のジムを開く」ということが長年の夢で、その目標のためにずっと準備をしていた。
……というわけでは実は全然ない。

まさか自分のジムを持つことになるとは3年くらい前までの自分はほとんど全く考えていなかった。

事の発端は2021年夏。

個人的に深い親交のある『ボルダリングジム8GRADE』のオーナーから閉店予定の報せを受けた。
(8GRADEの名誉のために断っておくと、閉店の理由は業績不振ではない。しかし理由についてはこれ以上深く語る権利を僕は持たないのでここでは詳述しない)

そして「8GRADE常連のためにも、物資(主にホールド)を引き継いで近隣に新たにジムを開く気はないか?」と打診された。

魅力的な話ではあった。

ゼロベースではじめるよりも明らかに開業コストを抑えられるし、なにより開業時点で一定数常連がつくことがあらかじめ期待できる。
そしてもちろん、地元のクライミング文化の存続に対して貢献もしたい。

だがやはりそれだけで簡単に決断できる話でもない。

実はこのころ僕は某そこそこ大手のボルダリングジムで雇われ店長として働いていた。勤続年数は8年ほど(うち店長としては4年ほど)。
8GRADEオーナーの数多いクライマー仲間の中から、僕が相続候補に選ばれた理由もこれが大きいとは思う。

しかしだからこそボルダリングジム運営の難しさや売上をあげていくことの困難も知っていたし、業界全体をまるきりポジティブに見ていられるような立場でもなかった。

しかも同年春に第一子が産まれ、翌年にマイホームを建てる予定もあった(そして結果として第二子も翌年産まれる)。
脱サラして個人事業主になりたいとは中々言えないような状況だ。

そんな状況で僕がとるべき手段はひとつだった。

「妻に相談する」である。

結局のところ、こんなことは自分ひとりで決断できることでも決断していいことでもない。
妻と相談して、じっくり考えて決めるしかない。

反対されるに決まってる、とまでは思わなかったが現実的にネガティブな反応はある程度返ってくるはずだ。
そうしたらまず、決して勝算の低い無謀な賭けではないということを示す客観的で公正なデータを示す必要がでてくるだろう。
自分の経験や聞き取ったデータを基にプレゼン資料を作って長期にわたる説得をしなければならない。
どのみち融資を受けるために事業計画書は作らなきゃいけない。金融機関の前にまず妻の審査を通すのだ、と意気込んだ。

そんな僕の意気込みも空しく

「いいじゃん、やろうよ」

妻はあっさりと賛成してくれた。

そりゃあ最初は大きな利益は出ないかもしれないけど、自分も働いてるし、家計のことはそんなに気にせず好きにやればいい。
というようなことを言って背中を押してもらえた。

なんと理解のある妻だろうか!

そのようにして僕のジムづくりはスタートした。

ここまでの話で大きな教訓が二つある。

まず、バカな挑戦をする男子には「理解のある奥様」が必要不可欠だということだ。
(メンヘラ女子に「理解のある彼くん」が必要不可欠であるのと同じように)

次に、人生の転機は人の繋がりによって訪れることもあるということだ。
自己啓発本やビジネス書なんかには、とにかく自分の行動や能力や気持ちによって手繰り寄せることでしか人生の転機はやってこないかのように書かれがちだが、とにかく「誰かと繋がって」いれば、その誰かから好機を手渡されることもある。

開業するまでの話

やると決めてからは行動はシンプルだった。

『創業支援 新潟市』でググる!

そうすれば行政と提携した「創業支援事業者」を知ることができ、そこから任意の事業者を選んで予約を取って相談に行くだけだ。
(ちなみに僕は新潟IPC財団という事業者を選んだ)

脱サラして個人事業主になるための最大のハードルは
「まず何をすればいいのか分からない」ことだ。
無知というのは暗闇だ。
暗闇に対してただ踏み出して行くのは恐怖でしかない。

「覚悟とは暗闇の荒野に進むべき道を切り開く事」というジョルノ・ジョバーナの名言があるが、僕の場合、暗闇の荒野に進むべき道を切り開いてくれたのは新潟IPC財団だった。

もしこれを読んでいる方で今後自分のジムなり店なりを持ちたいと考えて、その手引きとしての機能を期待している方が居たとしたら、今すぐこのページを閉じてgoogleのトップページを開き『創業支援 ○○市』(〇〇は自分の住む自治体)で検索すべきだ。そうする以上にいい方法は無い。

彼らは、創業融資制度の説明も事業計画書の書き方も開業後のマーケティングのアドバイスも、なにもかもを無料で引き受けてくれる。
開業することが確定していなくても構わない。
「もしイケそうだったら脱サラして店持ちたいんですよねー。でも別に全然いまの段階では現実的じゃないっていうか…ハハハ」
みたいな状況であっても相談に行ってもいい。実際に僕は初回に相談に行くときはそうだった。
それでも親身に相談に乗ってくれるし、段階に応じて必要な知識を授けてくれるし、なにより無料だ。途中で「やっぱやーめた!」と思って行動を打ち切ってもなんのペナルティも無い。

僕は計8回(1回1時間)は相談に行き、あらゆるアドバイスを受けた。

結果、創業資金として1,500万円の融資を受けることができた。

1,500万円。自分の金として一度に扱うには少し身構える額だ。
そしてこれに200万円の自己資金を加え、1,700万円を元手にジム開業に着手した。

1500~2000万円、これくらいが田舎で小規模なボルダリングジムを(賃貸物件で)開業するために最低限必要な資金だろうと思う。
僕の場合ホールドをまとめて8GRADEから格安で譲っていただいたので、そこの費用をかなり抑えられているが、その分内装(特に断熱)に費用をつぎ込んでいる。
ホールドをすべて新品で買い揃えようと思ったら400~500万円くらいは上乗せしたいし、借りた物件の状態やジム内の快適性の目標によっては内装費用はもう300~400万円くらいは抑えられるかもしれない。
また、内装・クライミングウォールの設計施工をクライミング仲間でもある知己の大工さんに依頼できたことや自分も施工を手伝うことで、ある程度施工コストを抑えられているので、そういった伝手が無く、例えばウォールの設計施工を東商アソシエートのような大手に依頼した場合はもっと費用が上がるはずだ。

もう少し言うと、創業のための制度融資で借り入れられる金額の上限は自己資金の10倍までなので、2000万円の融資を受けようとしたら自己資金が最低200万円は必要ということになる。
つまり、田舎で小規模なボルダリングジムを開業したければ最低でも200万円は自己資金を貯めておきたい。
それだけでなく、当面はジムの利益で充分な生活費を賄うことは難しいので、生活費として別に数百万ほどはストックしておくべきだ。

売上目標と実際の売上

ジムを運営する上での基本方針は「3S」で行こうと決めていた。

3Sとは「スリム」「シンプル」「スロー」である。

低収入だが低コスト(スリム)
扱う商品は最低限(シンプル)
自分があまり忙しくしない(スロー)

個人事業主の商売(特に初めての事業ともなれば)はこれくらいがいいとされているし、僕自身の性にも合っている。

ボルダリングジムはそもそもシンプルな業態だ。

あとスリム・スローを実現するためには「デカイ集客が見込めるが家賃が高額な物件」ではなく「立地などによる集客効果は薄いが家賃が安い物件」でやればいいだけだ。

3Sで行こうと決断した理由にコロナ禍の影響は少なからずあった。

前に勤めていたジムは全国にチェーン展開していたが、当然ながら平時は「デカイ集客が見込めるが家賃が高額な物件」に入った店舗が一番の稼ぎ頭だった。
しかしコロナ禍という異常事態に陥るとそういう店舗は一気にデカい赤字を毎月溜めこんでいくことになり、早々に切り捨てられていった。
残りの人生、コロナ禍のような事態がそう何度も起こるとは思えないが、一度も起こらないと想定するのも楽観的すぎる。
平時なら調子がいいが異常時にはすぐに倒れるようなやり方よりも、どんな状況でもしぶとく続けられるやり方を選びたかった。

ということで選んだ物件の家賃は月15万4千円(税込)。
そして月々の借金返済額も約15万円(1500万円を10年返済)。
水道光熱費も加味すると毎月必ず出ていく固定費は約35万円程度、それに加え大体月に5万円くらいは細々とした出費があるとして月毎の出費は約40万円くらいになるだろうと予想した。

それに基づき、まず初年度の月毎の売上目標は60万円と設定した。
月に20万円程度ずつ利益が出ているとなれば、儲かっているとは言えないまでも、とりあえず商売としての体裁は保てる。
そこから徐々に売上を伸ばしていければいい。

結論から言うと、この売上目標はほぼ達成できた。

しかし表題の通り、年間トータルの利益はマイナスだった。
何故だろう。

そう、僕はある見積もりを途方もなく間違っていたのだ。

さて、ここからは有料部分となる。
前述のとおり事業計画書の抜粋やら2023年度の損益計算書やらを掲載しつつ己の恥部を赤裸々に綴っているのでとても無料公開はできない。

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