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ボルダリングジムにおける「良い課題」とは?

割引あり

はじめに

ボルダリングでは、登るコースのことを「課題」と呼ぶ。

ボルダリングジムにはこの「課題」がいくつも設定してあり、利用者は主にそれを登って楽しむことになる。

つまりこの「課題」こそがジムの最も主要な商品であり、ジムの価値を決定する上で重要なものとなる。

そこでジムオーナー・ジムスタッフは「良い課題」ってなんだろう?
と常々考えることになる。

結論から言うと、この問題には「コレだ!」というたったひとつの正解は無い(多分)。
言ってしまえばケースバイケース、そのジムの経営スタイルであったり客層、リソース、規模、理念とか……そういったもので条件は変わってくる。

とはいえ、それで話を終わりにしてはつまらないし何も考えが発展しないので、もう少し深く考えてみようと思う。

つまり「どんなケースではどんな課題を用意したほうがいいのか?」とか「そもそも課題のタイプはどのように分類されるのか?」といったようなことだ。

ちなみに似たようなテーマでプロクライマーの「どひけー」こと土肥圭太氏がnote記事を書いているのでそちらも紹介しておく。主観的な考え方であると語られているが、客観的に見てもかなり参考になる意見なのでオススメ。

さて、以下ではまず課題のタイプを2つの軸で評価し、4種のおおまかなタイプに分類するところから始める。

そしてその4分類のタイプそれぞれのメリットデメリット等を語り、どんな場合にそのタイプの課題が「良い課題」として機能しやすいのか?ということを考えていく。

(ちなみに今回語るのはあくまで「ジムの営業課題として」の話になる。公式競技として課題や自然の岩場にある課題については話がまた違ってくるので留意していただきたい)

普遍的か独創的か

まずその課題が『普遍的』か『独創的』かということを考える。

『普遍的』というのは、その課題だけでなく幅広い場面で使用されるような動きで多くの部分が構成されている課題であるということだ。

『独創的』というのはその逆で、その課題でしかやらないような動きで多くの部分が構成されている課題であるということになる。

普遍的な課題というのは、ある意味でつまらない。
しかし、その課題で習得した動きは他の色々な課題にも転用できるということなので、有用な経験を蓄えることができる。つまり「練習になる課題」ということになる。

独創的な課題というのはやはり面白い。
しかし、極度に独創的になると、その課題を登ることで得た経験を他の課題を登る際に転用できないということにもなる。つまり「練習にならない課題」であるとも言える。

ジムを岩登りのための練習の場と捉えている人にとっては、普遍的な課題ほど良い課題に感じられると思う。

逆に課題を楽しむためにジムに来ている人にとっては独創的な課題のほうが良い課題に感じられるかもしれない。

競技者としてコンペを戦場にしているクライマーにとってはまた少し事情が変わってくる。

昨今のコンペに出てくる課題はとにかく独創的なものが多い。
コンペで勝つにはより独創的な課題を初見で攻略するための対応力が必要になってくる。
その対応力を磨くという意味では独創的な課題もまた「練習になる課題」であると言える。

テスト的かパズル的か

次にその課題が『テスト的』か『パズル的』かで評価してみよう。

テスト的であるとはつまり、そのグレード・その課題を登るために必要な力・技術を持っていないと登れないというような性質のことだ。

パズル的であるというのはその逆で、その課題特有のカラクリを解いて身体を馴染ませさえすれば根本的な力や技術のレベルが足りなくても登れるような性質のことだ。

岩場の課題の話になるが、たとえば塩原の『後悔(3級)』や小川山の『穴社員(3級)』瑞牆の『あかね雲(3級)』などはそのエリアの「テストピース」などと呼ばれることがある。(なぜかテストピース課題は3級に多い)

それらがテストピースと呼ばれるのは、基本的な保持力や足元の技術などが足りていないクライマーには「その場の工夫」だけではどうしても登ることができないような課題だからだ。

最近のジムにはパズル的な課題が特に増えてきているように思う。
2~3級くらいのグレードなのに、段を登るような強いクライマーでも何度も落ちてしまったり、逆に普段は4級くらいまでしか登れないクライマーでも上手くハマれば登れたりする。
こういう課題はセッションが盛り上がり、特に人気課題になったりする。

課題で人気投票をしたりしたら、多くの場合テスト的な課題は下位に追いやられ、パズル的な課題は上位に来るだろうと思われる。

4タイプにまとめてみる

前述の2種の分類を重ねてみると以下の図のようにまとめることができる。

もちろん、この図は課題の性質すべてを網羅的に表しているわけではない。
課題を評価するにはもっと他にも考慮すべき点はある(たとえば見た目のカッコよさなんかは最近ではかなり重要なファクターになっている)が、とりあえず今回は話を単純にするために、質的に重要だと感じている2軸だけに絞って4つのタイプに分類した。

また、それぞれの課題はハッキリとどの分類かに区別されるものでもなく、程度の差は離散的ではなく連続的だ。

(さらに言うと「テスト的」「パズル的」といった用語もこの記事内オリジナルのもので、業界で広く使われているものではないということは断っておく)

そのうえで、以下それぞれのタイプについて個別に細かく考えていきたい。

ここまでは「こういうふうに考えるとこういう分類ができるよね」という客観的な話だが、ここからは筆者の主観や偏見をバリバリに入れた話になる。

あまり正しい価値観でもないかもしれないので、ゾーニングという意味も込めてここからは有料となる。
気になる方は購読いただきたい。

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