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#24 私立大学の公立化と地域貢献 ―山口県周南市と周南公立大学を例に―


はじめに

『J NOTE』第24回は、山口県周南市を取り上げます。

周南市は、山口県中部に位置する人口約13.5万人の市です。かねてから重化学工業が盛んな街で、トクヤマ東ソー日本ゼオンなどの総合化学メーカーが市内に生産拠点を置いています。

また、山陽新幹線徳山駅や山陽自動車道徳山東インターが市内に立地しており、下松市や光市など周辺地域への玄関口としても栄えています。

そんな周南市では2022年、市内に立地している私立徳山大学の運営が市に移管されたことで、新たに「周南公立大学」が開学しました。

徳山大学はスポーツが盛んな大学だったことから、公立大学化後の現在も引き続きスポーツ系の専攻が設置されています。また、2024年度より学部学科が再編され、新たに情報系の学部と4年制の看護学科が開設されました。(表1)

表1 周南公立大学の学部・学科
(周南公立大学のホームページを元に筆者が作成)

周南公立大学は、地域連携を深めることや地域社会の持続および発展を目的に設立されており、今後どのように周辺地域の地域活性化を図っていくのか注目されています。

そこで今回の『J NOTE』では、公立大学と行政のかかわりと地域貢献活動について、周南市と周南公立大学を例に見ていきます。

①周南公立大学による地域連携事業

周南公立大学による本格的な地域連携事業は、徳山大学時代の2008年に「地域連携センター」を開設したのがはじまりです。当時は「地域創発ワークショップ」事業を中心に、地域との連携協力の基盤づくりを行っていました。

2020年に「地域共創センター」に改組してからは、地域連携事業だけに留まらず、「リカレント教育」や「ダイバーシティ推進」など、地域を支える学術機関づくりに力を入れています。さらに2022年9月には、「地域DX教育研究センター」が新たに開設され、「データ解析」や「IoT技術」によって地域課題の解決に取り組んでいます。

また、2014年からは本格的な地域連携事業として、「地域ゼミPROJECT」がスタートしました。

学生の履修カリキュラムの1つとして行われており、初年度は徳山地区の地域資源を生かしたブランドの創出や地元小学生との交流など、全9コースのゼミを開講して地域連携に取り組みました。10年目となった2023年度は、経営やSDGs、国際教養など多種多様な全49コースが開講されています。

このように、周南公立大学では地域活性化に対して様々なアプローチで事業を行っており、公立大学に移行してからは周辺地域に根差した「学びづくり」をより積極的に行っています。

②課題点 ―地元進学率の低迷―

しかしながら、周南公立大学では公立大学に移行したことによって、新たな課題も浮き彫りになってきています。そのなかで、今回取り上げるのは地元進学者の割合が少ない点です。

周南公立大学では、公立化によって大学の志望者数が約5倍以上に増加しました。しかしながら、入学者の地元出身者が占める割合はスポーツ推薦が多かった徳山大学時代と大きく変わらず、全体の3割程度に留まっています。(表2)

表2 入学者における山口県出身の学生の割合
周南市「徳山大学公立化有識者検討会議 報告書(概要版)」、周南公立大学「周南公立大学 FACTBOOK」を参考に筆者が作成。

そこで、周南公立大学では地元進学率の増加を目指して、2022年から学校推薦入試で「地域枠」を導入しています。周南市、下松市、光市の高校に通学している学生を対象に、各学部定員の20%から30%程度を募集しています。しかしながら、一般入試では全国から国公立大学志望の受験生が集まってくるため、全体を見ると地元進学者の割合増加には繋がってはいません。

また、かねてから山口県東部・中部の高校生は、自宅から通える範囲に私立大学や専門学校が少ないことから、広島県や関西方面へ進学する傾向が高いといえます。そのため、周南公立大学に希望の学部が無ければ他地域に進学するしかなく、結果的に若年層の流出にはあまり歯止めがかかっていないのが現状です。

周南公立大学のように、公立大学へ移管した大学は志望者の総数は大きく増加するものの、他地域からも受験生が集まるために地元進学率は横ばいか悪化しています。(表3)

表3 入学者数に占める地元出身者の割合(令和5年度)
文部科学省「私立大学の公立化に際しての経済上の影響分析及び公立化効果の『見える化』に関するデータ」(2024年5月12日閲覧)をもとに筆者が作成。

そのため、私立大学の公立大学化は大学のブランド向上や地域連携の連携強化にはつながっているものの、地域学生の地元進学率の向上という点に対しては効果を発揮できていないといえます。

おわりに

ここまで、山口県周南市と周南公立大学の地域貢献について見てきました。

周南公立大学では、かねてから周南地域の活性化に向けて様々な事業に取り組んでいましたが、2022年の公立大学化によってさらに積極的に地域貢献活動に力を入れていることがわかりました。しかし、地元進学率は現状大きく伸びていないため、今後はより地元高校との高大連携が重要なカギを握るのではないかと私は考えました。

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