見出し画像

「殺人」

画像1

画像2

殺人

始まりは日傘を開くところから
逢ふ前の茨の花に汚れあり
箱庭に人形ふたつ埋もれる
目を見てゐる夏の灯のうつる目を
哀しみの夏手袋を裏返す
カナリヤを殺めてゐたる夏館
短夜や供花としての髪飾り
彼を刺すだらう夕立の過ぎし頃
梳る髪は匂はず青林檎
香水の底うつすらと濁りけり
近道に教会通る朝ぐもり
影ふたつ並ぶ露台を過ぎにけり
扉開きてハンカチをまなぶたに
人殺すときのしづけさ髪洗ふ
その胸に指環を置きて月涼し
ずれてゐる絵画を正す溽暑かな
梅酒匂はせていつかの部屋を去る
殺人現場の指紋鮮やか夏の雲
みづうみに沈むナイフや未草
夏木立来てなめらかに手を洗ふ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?