美菜

俳句/「蒼海」所属・「奎」同人/日向美菜

美菜

俳句/「蒼海」所属・「奎」同人/日向美菜

最近の記事

「ざわめき」

しりとりに美しき言葉を並べたるたとへば硝子、菫にレース 人肌は匂ふ今まで摘んできた花の全てをまとめたやうに 机には鳥に変はるといふ薬まづは背中にそしてすべてに 薔薇色の顔は湖へと向いてゐるゆつくりしづむパルフェの葡萄 まぶしさを盾にしてをり大樹から地上に降りるその一瞬は 結ひ上げてしまへば髪はやはらかい意思を隠せる飾りとなつて 鳥籠に閉ぢ込めてゐるひかりたち触れてしまへば夜空に帰る くちびるは祈りのしづけさでひらく煙草をくゆらせるときでさへ 少年はいつもさびしきまなざしで眼鏡

    • 「色彩」

      映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』 二次創作連作 色彩 きつかけは店にあらはる夏の汝 屋上は夢の明るさ夏はじめ カーテンのうしろのさわぐ朝曇 踏切の向かう夏野の揺れてをり 電柱を縫うやうに駆け夏の雲 落書きの文字にやさしさ夏休 サイダーの泡沫ゆるやかに消ゆる そろそろと香水首元にすこし 葉桜や話すたび髪跳ねてゐる 口隠すための団扇や目の合ひて 逢ふときのこゑのしづけさ夏灯 夕立やおもちやのやうな部屋に寝る はしやぐやうなる噴水の上がりけり 引越しの最後詩集を積みて虹

      • 「殺人」

        殺人 始まりは日傘を開くところから 逢ふ前の茨の花に汚れあり 箱庭に人形ふたつ埋もれる 目を見てゐる夏の灯のうつる目を 哀しみの夏手袋を裏返す カナリヤを殺めてゐたる夏館 短夜や供花としての髪飾り 彼を刺すだらう夕立の過ぎし頃 梳る髪は匂はず青林檎 香水の底うつすらと濁りけり 近道に教会通る朝ぐもり 影ふたつ並ぶ露台を過ぎにけり 扉開きてハンカチをまなぶたに 人殺すときのしづけさ髪洗ふ その胸に指環を置きて月涼し ずれてゐる絵画を正す溽暑かな 梅酒匂はせていつかの部屋を

        • 「きれい」を読む

           「きれいは穢い、穢いはきれい。さあ、飛んで行こう、霧のなか、汚れた空をかいくぐり」  シェイクスピア『マクベス』 ❖  「きれい」なものを好んだ俳人がいる。幻の俳人と呼ばれた、鈴木しづ子である。 好きなものは玻璃薔薇雨駅指春雷  二十音を使って、奔放に好きなものを並べている。どれも美しく、触れたら壊れてしまいそうな繊細さを待つものである。そして、それらを好むしづ子もまた、奔放な中に繊細さを持つ人であった。 さくらはなびら踏まじとおもふ憂きこころ  心が苦しいとき

        「ざわめき」

          「少女」

          少女 産毛より泡の生まれて春めけり 白梅をこぼして水車回りけり ゆりかごのやうに舟出て春日かな 花の雨外してもらふ耳飾り 礼拝の列の細さやリラの花 夏帽と色を揃へて靴を買ひ はつなつの海のにほひの腕枕 波音のやうに日傘を回しけり 夏蝶の影流木に近づきぬ 風鈴に空さらさらと縁取られ 笹舟を虹ある方へ放しけり 妹の足をつつきてゆすらうめ 指ぬきを外さぬままに砂糖水 髪洗ふ祈りのやうに下を向き 花片より泡こぼれたる水中花 水中のやうな夜にゐて月見草 秋雨やゆつくりと書くかしこの字

          「少女」