「少女」

少女

産毛より泡の生まれて春めけり
白梅をこぼして水車回りけり
ゆりかごのやうに舟出て春日かな
花の雨外してもらふ耳飾り
礼拝の列の細さやリラの花
夏帽と色を揃へて靴を買ひ
はつなつの海のにほひの腕枕
波音のやうに日傘を回しけり
夏蝶の影流木に近づきぬ
風鈴に空さらさらと縁取られ
笹舟を虹ある方へ放しけり
妹の足をつつきてゆすらうめ
指ぬきを外さぬままに砂糖水
髪洗ふ祈りのやうに下を向き
花片より泡こぼれたる水中花
水中のやうな夜にゐて月見草
秋雨やゆつくりと書くかしこの字
耳打ちに小さくしやがみ秋桜
秋蝶を追ひ抜かしたる観覧車
叱られてまばたき多し草の花
湖へ良夜のこゑを聞くために
初冬や挿絵の隅にギリシア語
スケートのすれ違ふたび止まりをり 
くしやくしやにして胸に抱くカーディガン
日向ぼこ三つ編み少しほぐしをり 
温室のどこかを引つ張ればひかり
梟やきのふの夢を記したる
霜の夜の天文台の梯子かな
臘梅や古城に夜の流れゆく
心音の速さに雪の降りてをり


※第8回俳句四季新人賞最終候補作品

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?