好きな本③

好きな本を語ります。
建設途中のマンションはいつの間にか完成していて、工事が始まる前の風景を思い出すことができない。繰り返しを繰り返しているような、毎日が毎日のような毎日だと思っているのに、日々は変わる。風景も変わるということは僕の顔も変わっているはず。鏡を見ても気づかない。こういう時写真家の友人や恋人がいたら、自分の変化に気づくのかもしれない。
写った人と写した人の関係性がわかった瞬間に、サイゼリヤの間違い探しの間違いを見つけた時のように、嬉しさがこみ上げる。自分だけしか見ることができない表情を見たと勘違いしているのだろう。
クロダミサトさんの「HER」という本はまさに気を許した友人にしか見せない表情と生活が垣間見える写真集と日記で、笑っている顔一つでも、何があったのか、どうしたのか感情移入をさせたまま日記は生活を語る。
2010年から、2011年までの日記とクロダミサトさんが撮った友人の写真並んでいる。大学を卒業し京都から友人と上京して同居して不安と未来を夢見ている日記と写真が続く。それぞれ写真家と小説家を目指して上京した。
それは僕のとても仲の良い友人の日記を読んでいるようだし、飲み屋で隣に座って見せられたような写真で、変わらない日々の中で友人の関係が少しずつ変わり、目に見えない変化は大きく変わった瞬間に気づく。そんな切り取られた生活なのに僕の中では大切な物語になっていた。

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