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無くした紅白帽

マンションのエントランスに誰かが忘れた紅白帽が置かれている。名前が書かれているからすぐに誰かが拾うだろうと思っていたが、もうひと月は置かれたまま。
書かれている名前の子は、無くしたことできっとお母さんに怒られているだろう。それでも探しに来ない。紅白帽は今日も置かれている。
僕も小学生のころに無くしたことがある。どこにやったのかわからないし、どこを探してよいかわからなかった。今までにない緊張を持ってお母さんに紅白帽を無くしたことを伝えた気がする。しかし怒られることはなく、もう一つの帽子被ったらいいじゃんと言われた。
転校したので前の学校の紅白帽を僕は持っていた。珍しい紅白帽二個持ち。しかし転校前の学校の紅白帽は通っている紅白帽とは違いつばがなかった。
それからは僕だけドラえもんの石ころ帽子の紅白帽で体育をしていた。みんなつばがある。僕だけない。無くしてしまった罪で僕だけつばがないのだと思い込んで卒業まで過ごした。僕の紅白帽は見つからなかった。
書かれている名前は違うが、僕が無くした紅白帽かもしれないと思って今日も通り過ぎる。いつ誰が拾ってくれるのだろう。いつ見つけてくれるのだろう。
先日の文学フリマでも同じことを思ってしまった。いつか見つけてもらいたいと思ってブースに座っていた。紅白帽の気持ちがわかる。僕は早く自分の無くした紅白帽を探しに行かなければいけないかもしれない。

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