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知らない場所で。
先日つぶやきで、父に連れられて川に行った時のことを書いた。
子供の頃の夏だ。
父は釣りが好きで、ヒマさえされば釣りに行っていた。
よくハヤという魚を釣って来ては素揚げにして食べさせてくれたことを覚えている。
釣りに興味がなかった私は、その日は川の周囲で虫取りをした。
黒いアゲハチョウばかり、虫かごが真っ黒になるほどつかまえた。
蝶は標本にして学校の夏休みの課題で提出した。
昔の駄菓子屋さんでは昆虫採集の標本用の薬や注射、ピンのセットが普通に売られていたのだ。きっと本格的なものではなかったのだろう、そのセットで作った標本は少し腐臭がして、学校から返却された後に捨ててしまった。
きれいな広い川だった。緑も美しくて。
まぶしい、まぶしい夏。
あの川はどこだったんだろう?
なんとなく方角はわかるのだが、地図で調べても判然としない。
近隣だと思い込んでいたが、もしかしたら祖母の実家のあたりなのかもしれない。だとしたら車で2時間ぐらいかかる。緑豊かなのもわかる。かなりの田舎だ。でもそんなに遠くまで行ったのだろうか。
懐かしい、懐かしい場所。
実家に帰った時、母にその川の話をしてみた。
「あの川にまた行ってみたいんだよね。でも見当もつかないの。どこなのか知ってる?」
「さあ、知らない」
やっぱりそうか。
お母さんも釣りに興味なかったもんね。
夫婦で行ってもつまらないから私を連れて行ったんだわ、きっと。
すると母はこんなことを言い出した。
「お父さんとあなたが二人で釣りに行ったことなんかないと思うけど」
「行ったよ。夏休み」
母はいぶかしげな表情になった。
「夏休み?小学校の?」
「そうだよ」
「釣りなんか好きだったかなあ」
何いってるんだろう。
お盆で母の実家に泊まった時も、近所の海で父は釣りをしていた。
ある夜、大きなイサキを釣って来て私が魚拓の作り方を教えたではないか。
「少なくともあなたとお父さんが釣りに行ったことは一度もない」
母はもう一度言った。
「あなたはお父さんを覚えていないはず。あなたのお父さんはあなたが小学校に入る前に亡くなったのよ」
end
※この話はガタオが語りました。
パクると呪われます。
つらい毎日の記録