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優しいおばさん

私は10年近く前に今の家に引っ越した
前は高層マンションの最上階に住んでいた
同じフロアには15部屋あったが、顔を知っているのは5家族だけ
その中に、すごく優しいおばさんがいた
お嫁に行った娘さんが私と同じ年らしくて、顔を合わせると声を掛けてくれた
色々あって引っ越すことになった時、この人は私を抱きしめて名残を惜しんでくれたのだ
その後も、色々あって顔を合わせるたび、やっぱり私を抱きしめてくれた

その人と久しぶりに会った
実は少し前から気になっていたのだ

マスクして合うのは初めてだったが、すぐにお互いに気が付いた
私が「お久しぶりです」と言うと、やっぱり抱きしめられた

ああ、この人はまだこうしてくれるんだな
じんわり幸せを噛みしめていると、

「娘が亡くなったの」

おばさんが言った

「どうして?」

最初は風邪だと診断されたらしい
ずっと風邪薬を飲んでいたが治らないので別の病院に行き、そこでも風邪だと言われて、3つ目の病院を訪ねた時には余命一年
最初の診断から1年がたっていた
もっと早くわかっていたなら

「たまらんかったよ。具合が悪いと思ったらすぐに病院に行ってね」

おばさんは私を抱きしめて泣いた
私、母親にもこんなに抱きしめられたことはない
小さなころは知らないけど

おばさんはだいぶ前に旦那さまに先立たれ、たぶん子供は娘さんだけ
旦那さまの時は突然で、警察官がいっぱい家に来たらしい
私はあの時も急に話を聞かされて、ちゃんとしたお悔やみを言うことができなかった
今回も、何もうまく言えなかった
なんで、こんな素敵な、こんな優しい人にこんな不幸が起きるんだろう

神様なんていないっていつも思ってるけど、ほんとにほんとにいないんだなって、悲しくなった



つらい毎日の記録