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「9月の珈琲 Indonesia:かけらを散らす」

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

台風が過ぎ去った日、私は電車に乗っていた。

数年前まで、毎日のように利用していた路線だが、今では月に一度利用するくらいになってしまった。
それほど長い距離を走る路線ではないけれど、線路脇に植えられた植物は季節ごとにその花を咲かせる。

とてもお気に入りの路線だ。

今日は、どんな花が咲いているのだろう。

スマホをリュックのポケットにしまい、私は窓の外を眺めていた。

Indonesia:かけらを散らす
白いペンキがはげた出窓の奥
揺れるレースのカーテンのすき間に
木でできた模型の船が見えた
台風が過ぎ去った日
百日紅の桃色の花は
そのかけらを散らしていた

白いペンキがところどころはげている出窓が目にはいった。

少しだけ開かれた窓から、台風の残り風が侵入しているのだろう。
レースのカーテンが揺れている。

あっ、船の模型。

木でできた繊細な作りの船の模型が見えた。

風で揺れるレースのカーテンが、その模型をさらってしまわないかが気になって、視線を出窓のそとにうつした。

そこには、百日紅の桃色の花が咲きほこっていた。

新しい季節の訪れを告げる台風の残り風に、その小さなかけらをひとつずつ散らしていた。

夏から秋へと、装いも変わるこの時期。
少し肌寒さを覚える風は、いろんなモノやコトについた皮を一枚ずつはがしていくように感じます。
それはかけらとなり、散っていく。
寂しさを覚えるけれど、そこからあらわになったモノに、また、新たなかけらを一枚ずつ足していけばいいのではないか。
そう思い、一枚ずつはいでいけるような幾重にも重なったコクとその奥に酸味が残るインドネシアの豆を選び、焙煎しました。

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