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「12月の珈琲 Ethiopia:鼻をくすぐる」

あまいあまい香りに、思わず、のけぞった。

Ethiopia:鼻をくすぐる
隣の席に突っ伏して
眠っている背中がうごいた
あまいあまい香りが
鼻をくすぐる
誰も見ていない
教室のうしろの出来事
甘酸っぱさが思い出をつれてくる

あいうえお順で決められた席では、いつまで経っても、近くの席になることはない。

そんなことを思っていたから、化学室で、先生から指定された席に着こうとして、驚いた。

大きな机にふたつ並んだ椅子のひとつはすでに埋まっている。

最初から授業を聞く気はなかったのだろう。

先生が授業を始めた途端に、机に突っ伏したと思ったら、もう寝息をたてはじめた。

黒板に板書しつづける先生。

それをノートに書き写すのに必死な生徒。

化学室の後ろのこの席を見るひとは誰もいない。

背中がぴくりと動いた。

あまい香りが鼻をくすぐる。

あまいあまい…

化学室の後ろの席。
誰もみていないあまい思い出。

数ヶ月前のこと。
焙煎を失敗し、えぐみが残ってしまった珈琲豆がありました。
なにがいけなかったのかを考え、きっと、あの操作がいけなかったのだろうと答えを出したものの、失敗というのは、次の焙煎にとまどいを与えるのです。
2021年最後の月の珈琲に、この珈琲豆を焙煎しようと決意し、麻袋を開け、生豆のあまい香りをかいだ時。
焙煎したい。
素直にそう思いました。
そして、焙煎した豆に、毎日、笑い転げていた懐かしくも甘酸っぱい日々の思い出がこみあげ、とまどいを上書きしていきました。


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