見出し画像

「モンクバッグ(monk bag)」製作日誌:帆布をひもとく-後編

みなさまこんにちは、イトウでございます。

突然ですが、「お疲れ様です」と声をかけられたらなんて返しますか?

会社では仕事終わりに「お疲れ様です」と挨拶すると「おやすみなさい」と返ってきます。
それが夜でも昼でも何時でも。

はじめこそ少し引っかかる部分はあったものの、まあ会社ってそういうもんなんだなと、徐々にそれが当たり前になってきて自分でも使うようになっていました。
ところが最近、社外の県外出身の人に「お疲れ様です」と声を掛けられ、いつも通りに「おやすみなさい」と返したところ、「はやくない?まだ17時だよ?」と言われてしまいました。
その不意打ちでド直球な疑問は数年前の自分の感覚と重なる部分があり、
調べてみると、北信州の方言では、「おやすみなさい」は「さようなら」を意味するとのこと。
なるほど、寝る間際のおやすみ、ではなく”ゆっくりお休みください”という意味なのか、と納得した長野生活4年目のわたくしでした。

さてさて、前回に引き続き纏うカバン「モンクバッグ(Monk bag)」に使用する備前コーマオックス生地についてお送りしてまいります。

お坊さんの袈裟に着想を得て、体に添わせるような形で身に付けるバッグなのですが、その素材に求めたのは物を持ち運べる耐久性と纏うことのできるしなやかさ。

型のサンプルはサクライのnoteからご覧いただけます。


いい生地はないだろうかと糸編さんの主催するテキスタイルショールームへ。

画像1

日本各地のテキスタイルが集結する生地の展示会です。
そんな折に、タケヤリさんの“備前コーマオックス“を見て触って、一瞬でこの生地だ!となった出会いでした。

前編でお話したとおり、タケヤリさんは岡山県の老舗帆布メーカーさんです。
今回使用する備前コーマオックス生地は帆布よりも細い糸を撚って織り上げている為しっかりした強度はありながらも柔らかい生地になっています。

糸自体にはコーマ糸を使用しています。
コーマ糸とは、繊維にコーミング(櫛通し)を施したもので、短い繊維は除かれて繊維長の長いものが糸になっているので、これを生地にするとつややかで肌触りのいい生地に仕上がります。

さて、そんな備前コーマオックスがどんな風に生まれてくるのか岡山まで工場見学に行ってまいりましたので順を追ってお話させていただきますね。


1 整経

1-1 荒巻(あらまき)

24 タケヤリ_210222_155

原糸をセットしてビームと呼ばれる大きな糸巻に巻き取っていきます。
こちらは、経糸を巻きとっている様子。

24 タケヤリ_210222_154

一枚目の写真がセットされた原糸、二枚目の写真の職人さんの足元にあるのがビームです。
数百本の糸が左右から伸びで絡まることもなく一か所に集中する様子は繊細でありながら圧巻です。

アングル違いでもう一枚。

24 タケヤリ_210222_151


1-2 最終巻き取り

24 タケヤリ_210222_109

先ほど巻き取ったビーム数個を、織機用の一つのビームに巻きなおしていきます。
この工程で、経糸の本数がさらに密になります。
写真のものだとビームが6個なので経糸の本数も最初のビームの状態から6倍になります。

2.経通し(へどおし)

いよいよ織機に糸がセットされていきます。
今回はタイミングが合わずに見学することが出来ませんでしたが、
先ほど巻き取った経糸を織機の「ドロッパー」、「ヘルド」、「おさ」と呼ばれるパーツに通していきます。
細かい作業ですが、全て手作業で行われるんだそうです、、すごいですよね、、
数千本ですよ、、!

3.製織(せいしょく)

24 タケヤリ_210222_71

こちらがベルギー製シャットル織機、ピカノール。
国内でも恐らくタケヤリさんしか保有していない非常に貴重な織機です。
そして織られているのがまさに私たちのオーダーした備前コーマオックス。
ガシャンガシャンと大きな音を立てながら、
左右にシャトル(杼)という木製の舟形の道具が飛び交い緯糸が打ち込まれて行きます。

機械時計のようにすべてがかみ合って働き合うような
規則正しい躍動感のなかで少しずつ生地が生み出されて行きます。
残像に見えるくらいのスピードで織りあがっていく生地は、
なんと一日稼働しても約0.7反(35m)、モンクバッグ換算で17着分
これだけ時間をかけて織られた生地は、高密度でありながらも空気を含んだふんわりとした風合いに仕上がります。

4.流し検反(ながしけんたん)

24 タケヤリ_210222_55

織りあがった生地がするするーっと検反機の上を滑っていきます。
キズや汚れなどがないか全反、職人さんの目による確認が入ります。
こちらもものすごい集中力です。

24 タケヤリ_210222_52

チェックを通った生地は検反機の裏側でパタパタと折りたたまれていきます。

5.畳み(たたみ)

24 タケヤリ_210222_44

24 タケヤリ_210222_48

チェックを通った生地は写真の機械で畳まれていきます。
通常はロールの状態で見かけることが多い生地ですが、
何故畳みの状態なのかというと、キズなどの欠点のある場所をすぐに開いて修正することが出来るからなんだそうです。
検反の段階で、キズや汚れの見つかったものも、直せるものは職人さんの手によって修繕が施されて出荷されます。

24 タケヤリ_210222_38

駆け抜けるようにご紹介させていただきましたが、このような工程を経てモンクバッグ(Monk Bag)に使用される生地が作られています。

ちなみに備前コーマオックスという生地も、なんと復刻版なんだそうです。
昭和30~40年代に学生服やワーキングウェアに使用され流行した“備前シリーズ”という企画があったそうで、備前壱号は平織りではなく綾織の織組織だそうなのですが、そちらをオックスフォードに落とし込んだのが備前コーマオックス。

建物、機械、職人さん、歴史に裏付けられた確かな技術や、ここにしかない生地。
シンプルにこだわりぬいたからこそ生み出された魅力だと思います。

岡山出張番外編

老舗喫茶店:「ニューリンデン」

今回工場見学にはサクライとイトウで行ってまいりました。
二人とも初中国地方ということで、張り切りすぎて早く到着したので、まずはお昼を倉敷のニューリンデンにていただきました。
老舗の喫茶店で、店内は地元の常連客がたくさん。

画像12

サクライが食べていたトーストもプリンもとっても美味しそう。
(私は、カフェらしからぬお雑炊をいただきましたが、洋食から和食までなんでもある昔ながらの喫茶店の懐の深さが好きです。戦争なんて起こりっこない。)

食後のカプチーノにはお花が咲いていました。

ニューリンデン


瀬戸内を眺めるカフェ:「belk」

画像14

工場見学後にタケヤリさんの大岡さんに教えていただいて、足を運んだのはbelkというカフェ。
ロケーションが最高なんですというおススメをいただいたのですが本当にその通りで
穏やかな瀬戸内海の水面に沈んでいく夕日を無心で眺めてしまいました。
カフェもおしゃれで素敵な店内、コーヒーもペイストリーもおいしくまさに至福の時間でした。
無心すぎて、お店のお洒落さの伝わる写真を撮影していなかったので、Instagramを貼らせていただきます。

岡山は歴史を感じる街並みも残っていて、旅行でまた訪れたいと思うほど魅力たっぷりの場所でした。
番外編はこのくらいにして、
また引き続き、モンクバッグについてお届けして参りますのでお楽しみに。

それでは、おやすみなさい


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?