【完全解説】パフォーマンスが上がるプリショットルーティン!
「練習場ではいい球が打てるのに、コースだといまいち実力を発揮できない」「コースだと何かが違うのかな?」と不安定なパフォーマンスに頭を悩ませているゴルファーは多いのではないでしょうか。
しかしながら、上達したい気持ちとは裏腹に、経済的な負担や時間の制約、ライフイベントによる生活環境の変化から、なかなかゴルフに費やせる時間とお金がないのが現代ゴルファーの悩みだと思います。
そこで今回は、少ない練習時間でもコースであなたの実力を出しきれる方法の一つである「プリショットルーティン」について解説します。
ゴルフを生涯スポーツとして長く続けたいと思っている方や、競技を目指している方に参考になる内容になっています。
◆プリショットルーティンとは?
プリショットルーティン(Pre-shot Routine)は、ゴルフのショットを打つ前におこなう「決まった一連の行動や思考の流れ」のことを指します。
よく目にする、選手がショットの前に片目を閉じターゲットを見る行為がこのプリショットルーティンの一部にあたります。ゴルフ以外のスポーツでは、バッターボックスでイチローがとるポーズや、ラグビーの五郎丸さんのアレを想像してみると分かりやすいかもしれません。
何のためにやるの?
ゴルファーの心と体を「戦闘モード」へ切り替え、ショットの準備を整えるためにプリショットルーティンをおこないます。
ゴルフは1回のラウンドで約4〜5時間かかる長丁場のスポーツですが、その間、常に高い集中力を持続することは至難の業であり、ほぼ不可能といえます。
プリショットルーティンがショットとそれ以外の時間を切り替える合図になっていることからも、これをスポーツ心理学ではキュー(合図またはスイッチトリガー)と呼んでいます。
他のスポーツでも、大事な場面での心と体を切り替える合図として、ルーティンが用いられています。
これがなぜ重要なの?
同じスイングを何度も繰り返すゴルフでは、スイングの正確性や再現性を高めるうえでこのプリショットルーティンが非常に重要な役割をになっています。
毎ショット、決まった手順で、ある行動と思考の流れを実践することで、ゴルファーは自分自身をよりコントロールすることができ、結果より正確にショットを打つことができます。
しかし、プリショットルーティンは、ただ同じ動作を繰り返し行えばいいだけの単純なものではありません。自分専用にカスタマイズした内容で、毎回正確におこなうことが大切です。
◆プリショットルーティンの仕組み
プリショットルーティンの効果を支える要素として、以下の2つが挙げられます。
【1】フォーカルキュー(Focal Cues)
【2】自動的想起
①メンタル的な集中力を強化するフォーカルキュー:
スポーツにおいてアスリートが意識的に利用する視覚刺激のことをフォーカルキューといいます。これは特定のものに一気に注意を引きつけ、集中を促すことで、パフォーマンスの質を向上させるために用いられます。
例えば、ゴルフのパッティングでは、ストロークを始める前にカップをちらっと見ますが、この「カップを見る」という視覚刺激がフォーカルキューにあたります。目標とするカップを意識的に見ることで、正確なストロークをおこえる確率を高めているのです。
このフォーカルキューをプリショットルーティンに組み込むことで、集中するスイッチが入りやすくなり、ショット前の心理的な準備がスムーズに素早く整うようになります。
②パフォーマンスの一貫性を高める自動的想起:
自動的想起は、経験や日常での反復を通して培った情報に基づき、最適な行動を自動的に引き出す反応のことです。長期記憶の一種にあたるため、情報や動作が何度も繰り返し強化されたとき、その内容は自動的に動作へと変換されます。
例えば、自転車にしばらく乗っていなくても、乗り方を忘れないのは、この自動的想起が働いているためです。
プリショットルーティンでは、パフォーマンスの一貫性を高める効果があります。最適な選択を迅速に決断できるだけでなく、動作の正確も向上するため自信も高まります。
プリショットルーティンは、これらの仕組みが基盤となっています。
◆プリショットルーティンの構成
プリショットルーティンは以下の3つの段階から構成されています。
【1】シンキングフェーズ
【2】リハーサルフェーズ
【3】エンゲージメントフェーズ
・第一段階:シンキングフェーズ
置かれた状況でのベストショットを選択するために情報収集をする段階です。
ボールのある場所に到着したとき、またはボールの近くへ歩いて向かうときにこのシンキングフェーズがスタートします。
ショット選択に必要なあらゆる要素をチェックします。
・ピンポジ
・ハザード
・風
・ライなど
ここで、以下の3点につて考慮し自分の1番成功の確信を持てるショットを選択します。①ショットの成功率
②ショットが失敗したときに負うリスク
③ショットが成功したときの恩恵
適切な判断をおこなえるよう以下の2点にも注意しましょう。
・打ってOKなエリアはどこか?
・成功率が高く自信があるショットはどのショットか?
その日のコンディション、ショットの調子、天候、コースレイアウトによって選択肢は大きく異なるので、最適解はケースバイケースです。このプロセスを繰り返し行うことで、ショット選択に費やす時間を短くできるようにしましょう。
・第二段階:リハーサルフェーズ
ショットへ向けて準備を整えるフェーズです。
シンキングフェーズで選択したショットを遂行するために、どんな動作感覚が必要で、何に意識をむければいいのか?どんなテクニックが必要なのか?など、これらを整理し素振りを行います。
(※効果的な素振りの仕方については「実践するときのポイントの項をお読みください」)
このフェーズでは、あれこれ多くのことを意識しないようにしてください。ショットの前に意識を向ける課題は多くても2つ程度がいいでしょう。欲張るとキャパオーバーになり、初歩的なミスをしてしまうかもしてません。複数の課題に意識を向けるのは練習場だけにして、コースではシンプルで効果の高いことを行うように心がけましょう。
本番のショットでは、余計なことを考えなくていいように、ここでしっかり考えを整理し意思を固めます。このフェーズでは、自分の選択したショットに100%の自信と確信があること、そして明確なイメージができていることが大切です。
そして、このフェーズで積み上げた感覚と集中力を、そのまま本番のスイングまで持っていきます。
・第三段階:エンゲージメントフェーズ
ボールへ向かって歩き始めたら、すでにこの最終フェーズに入っています。
ここでは思考を静め、さきほど素振りで作り上げた感覚やイメージを再現することだけに集中しましょう。
もしここで、急に何かが気になったり、さっきの素振りで意識していなかったことをやろうとする行為は、ショットの障害にしかなりません。自分の決断に迷いが生じたら、もう一度、落ち着いて第二段階からやり直すことをお勧めします。
その他のプリショットルーティンの考え方
メンタルトレーニングに力を入れたプログラムが有名なビジョン54では、プリショットルーティンをボール周りの空間をシンクボックス(考えるボックス)とプレーボックス(プレーするボックス)の2つの箱に分けることで、ボール方向へ移動し箱をまたぐときに行動と心理状態を変化させる考え方を提唱しています。
シンクボックスでは、論理的かつ計画的にショットの戦略をたてます。そして、シンクボックスとプレーボックスの間にあるデシジョンライン(決断するライン)を、最終的な判断を下す境界線とし、この決断するラインを越えプレイボックスに進んだら計画に迷いを持たずにプランの実行に移ります。プレイボックスでは、思考を静め感覚に集中することでショットに全力でコミットします。
一方、本記事で解説しているプリショットルーティンは、ボールの近くに到着してからショット遂行までを「タイムライン」で考え時間を3つに区切り、段階を踏みながらフェーズの移行とともに行動と心理的状態を変化していく考え方です。
このようにプリショットルーティンには、さまざまな考え方があるので、いろいろ試して自分にあったプリショットルーティンを構築してみてください。
◆プリショットルーティンを実践するときのポイント
・アマチュアゴルファーの場合
効果的に素振りを取り入れる:ショット前におこなう最後の素振りは、本番のスイングと同じフルスイングをしましょう。これにより、たった今おこなった素振りの感覚をそのままショットで再現すればいいだけなので、余計な調整をする必要がありません。
キャパにあった意識の向け方:そのとき取り組んでいる課題のなかで、1番ショットの成功率が高くなる課題を1〜2個ピックアップし、第二段階の素振りに取り入れましょう。意識することが多すぎるとキャパオーバーになり、実力を出すことができなくなる可能性が高いです。
ローポイント(スイングの最下点)のコントロール:ローポイントはアマチュアのショットの成功率を大きく左右します。素振りではローポイントを明確にイメージし、そのイメージに一致する素振りをおこなうことが望ましいです。
(ケーススタディ)
ピンまで165ヤード、右奥のピン、7番アイアンで150ヤードのフェードを打ち、軽く左手前からランで寄せたい、ショートしてもOK、というシナリオ。
このときゴルファーAは、薄くターフを取りたいから…と明確なローポイントの深さと位置をイメージします。ボールの真下からボールの先5cmくらいまでの間で、深さは1cmくらいがいいな〜とローポイントの許容ゾーンを具体的に考えます。
色の違う芝や枯れ葉などをボールに見立て素振りをします。クラブヘッドと芝の摩擦で、今おこなった素振りのターフの深さや位置を確認します。
ローポイントが低くなると、クラブが深く入りターフが深く取れますし、反対にローポイントが高いとクラブが届かず芝の葉先しか擦れないので、意識的に素振りをするだけで簡単に正確なフィードバックを得られます。
納得のできる素振りができたら、そのまま第三フェーズに移行してボールを打ちましょう。
・プロとアマチュアでは、プリショットルーティンの目的が異なる
プロがショットの前にゆっくりスローモーションでおこなう素振りは、リラックスすることや動作感覚を刺激することを目的としています。
その一方で、アマチュアの素振りの目的は、本スイングの再現性を高め、やること・考えることを極力少なくし、集中力を高めることにあります。
プロの場合、練習量や経験値、スイングの再現性の高さから、そもそものプリショットルーティンの目的がアマチュアと大きく異なるというわけです。
オリジナルのプリショットルーティンを作るときは、目的から見て意味のある行動を組み込めるとより効果が高まるでしょう。
◆プリショットルーティンは想像以上に奥深い
ショットルーティンには、おそらく皆さんが思っている以上に多くの要素が含まれています。脳の認知処理・注意の配分・感情反応・モチベーションの維持・集中力の向上・パフォーマンス不安の管理など……。ショットルーティンは、最高のパフォーマンスを発揮するために必要な要素のすべてをポジティブに働かせる力を持っているのです。
・確実性と不確実性を見極める
皆さんは物事の「確実性」と「不確実性」について考えたことがありますか?
物事には自分で「コントロールできること」と「コントロールできないこと」があります。つまり「確実性」と「不確実性」があるんです。そして人間は、確かでない不確定な要素を恐怖と捉える性質を持っているといいます。
ゴルフにおいて、確実にコントロールできることと、不確定な要素を見極めることは非常に重要です。ショットの結果やスコアといったゴルファーがコントロールできない不確定な要素に執着し、それを基軸に自己評価を続けると、パフォーマンスが低下するだけでなく、成長の妨げにもなりかねません。
しかし、ショットルーティンは、自分で確実にコントロールできる行動です。このルーティンに明確な目標を設定し、一貫して実行することで、苛立ちやストレスを管理し、最高の集中力を持ってショットに臨むことができます。
ショットルーティンを成功させることが一つの達成であり、その積み重ねが最終的に望む結果やスコアにつながると考えられれば、不確実性への不安を和らげることができるのかもしれません。
おわりに
ショットの前に意味のある行動を積み重ねることで、自分自身をよりコントロールし、より正確な動作でスイングできるようになります。また、プリショットルーティンを通して、自分のプレーに影響を与える要素と戦略を毎回確認できるので、より効果的なプレーを期待できるでしょう。
自分に最適なプリショットルーティンを作りたい、または、プリショットルーティンを見直したいという方は、下の画像のようなチェックシートを活用してみてください。
自分に必要な「行動・思考・目標」の関連性や流れを改めて整理できるのでおすすめです。(ここからダウンロードできます)
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