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妄想、最高!

初めて読んだ絲山秋子さんの作品は、社会人になって時計メーカーの営業職として働きだして5年くらい経過したころに父に勧められた短篇集『沖で待つ』(第134回 芥川受賞作)だった。とくに表題作の「沖で待つ」は、そのときの私の状況が物語の設定とすごく似ていて、同じ営業部にいた同期の男子と成績を競いながらも切磋琢磨できる戦友のような関係で、仕事に没頭していたこともあって、とくに印象に残った作品だ。何度も何度も読み返した記憶がある。それから絲山さんの作品は出るたびに手に取って読んできた。提示されるさまざまなテーマの根底にはいつも「ぬくもり」が感じられる。

方丈社のウェブサイトで連載されていた絲山さんの『妄想書評』。残念ながら連載は打ち切りになってしまったけれど、絲山さんが自作ZINEとして出版されると知り、迷わず購入!(2020年11月。現在は売り切れのようです。)届いた本には絲山さんのサインがあって、お手紙も入っていて、それはそれは感激した……。

冒頭の一文を読んだだけで、ぐっときちゃう。

「妄想書評」は、架空の本のタイトルリストから、毎月本を選んで内容や感想をでっちあげるという企画です。

本の題も、作者名も、出版社名も思わずにやけちゃう。

架空の本のはずなのに、入念に読み込んで執筆したと思わせる書評は、絲山さんの豊富な知識があちこち散りばめられていて、それがまたすごくかっこいいのだ。架空の本のはずなのに、実際に存在する、いや、存在してほしいと思わせ、架空の本を読んでみたくなる筆力に圧倒される。くすっとしたり、しんみりしたり、涙が出るほど笑ったり、やみつきになってもっともっと書評が読みたくなる。

連載復活を希望!

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