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■chapter.1


・・・


華やかな余韻が残る夜道は、対照的に私をひどく感傷的にさせた。


孤独な夜とは裏腹に、今日も眠らない街の明かりは、私を安心させる。けれど、何故か一層寂しく思わせた。

久しぶりに履いたルブタンのヒールのせいか、脚はとっくに悲鳴をあげていて、ガードレールに腰掛けながら、脱ぎ捨てるみたいに圧迫されていた脚を解放する。

12センチ上だった視界は、ストンと12センチ下へと落ちる。ストッキング越しに感じるアスファルトから、ゴツゴツとした感触が痛い程伝わってきて、地面を踏み締める感触なんて何年振りだろうと懐古する。


そのままぼんやりと空を見上げると、オリオン座が見えた。昔の人は、空に散らばる星々を動物や物に見立てたというけれど、私にはどれを見ても何かの形に見えることはない。


けれど、砂時計の形のように見えるオリオン座だけは、私にもわかる。はっきりと真ん中に3つの星が並んでいる。案外こんな街中でも星空はあった。


都会では星空が見えないって聞いたことがあるけれど、それって嘘なのかも。ただ単に見上げていないだけなのかもしれない。


毎日何かに追われていたり、日々時間が消費されていくこの都会では、こんな風に空を見上げる時間が無いのかもしれない。

ほとんど何も入らないミニバッグから、煙草を取り出し口に咥えた。

煙草は入っているのにメイク直しに必要な化粧品が入ってないのをみて、友達のユリが驚いていたのをライターの先に火がつく瞬間と同時に思い出した。

メイク直しが必ずしも必要でない人間にとって、ミニバッグに入れる必需品に化粧品が入ってないのはごく自然と思うのだけれど、一般の女性の感覚とは違うと言われた。

そういう一般的な常識とか、普通は、とか言う人が世の中の偏見というものを生んでいるのではないかと思う。


とはいえ、そんなユリは結婚間近だそうだ。世間で求められるオンナというのは多分ああいう女なんだろう。メイク直しを必ずする、オンナらしい女。実際私には、もう3年ほど彼氏という存在がいないわけだから、言い返す言葉がないから何も言わない。

こうやって、学生時代の友達がまた結婚していく。30歳が目前に迫る20代後半なわけだが、結婚ラッシュとは言わないものの、じわりじわりとまた一人、また一人、とゴールインしていく。むしろこれが結婚ラッシュと言うんだろうか。

今日だって、学生の時一番男っ気がないと言われていたミヅキが結婚したのだから分からない。

彼氏がいるイメージが湧かないとまで言っていたのに、気付いたら付き合っていて、わずか数日で同棲にまで発展し、そして今に至るわけだ。

久しぶりに見たミヅキは、本当に幸せそうだった。付き合っていると、お互いが似てくるというけれど、確かにその通りだった。新郎の笑顔は、どこかミヅキのクシャッとした笑顔によく似ていた。幸せな姿に、純粋に憧れと羨ましさを感じたのと同時に、どうして私はという黒い感情を腹の底に感じてしまった。


心からおめでとうという気持ちと、そう思えない自分の醜さに心底辟易する。

何とも言えないモヤモヤした気持ちが再び喉元まで迫り上がってきたものだから、紫煙と共に無理矢理吐き出した。ほんのりとバニラの香りがする(らしい)煙が、夜の真ん中に漂う。


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