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▪️chapter.5
・・・
『ごめん、仕事まだかかりそう』と、流れるようにフリック入力をする。仕事の忙しさのせいだと思いたいが、若干の面倒臭さを感じる。仕事が終わったら少し時間ある?と来たのは今日の昼頃だった。
『大丈夫!仕事終わったら連絡して!』と数秒後に返事が来て、なんとなく気持ちが滅入った。どう考えても優しい相手の思いやりを、どうしてストレートに受け入れられないのだろう。私の言う『仕事まだかかりそう』は、だからもう今日はやめておこうの返事を期待しているものだった。
けれど彼は、私が仕事遅くなるというのをそのまま受け止めて、終わったら迎えに来てくれるつもりらしい。正直、私は一人になりたかった。帰り道、1日の仕事終わりを締めるための煙草が、私のルーティンだからだ。
仕事と恋愛の両立というのは、みんなきちんとバランスが取れているんだろうか。私にはどうしてもそれが上手くいかない。大体いつも仕事に比重が掛かってしまって、恋愛が雑になってしまう。それを理解してくれる人というのは中々いなくて、きっと彼ぐらいなんだろうとは頭の中では分かっている。
たまに迎えに来てくれて、そのままご飯を食べに行くのなら良かったのかもしれない。しかし、こうも一週間のうちに何度も迎えに来てくれるというのは、こちらとしても申し訳ないのと、自分の時間が取れなくなる気がして、息が詰まるような気がしていた。
前にその話をした時、彼は『自分が会いたいから申し訳なく思う必要はない』と言ってのけた。自己満足でやっているから、何も気にしないでほしいと。その気持ちが重く感じてしまうのは、私のどこかが欠けているからだろうか。
車に乗れば、独特の空気感があって気まずい。それはきっと、私たちが付き合っているわけではないからだろう。こんな私に、彼が好意を向けてくれていることは明らかだけれど、どうしてもそれを受け入れる気になれなかった。それでもこうやって会っている私は、本当に最低な女だと思う。少し言い訳できるのなら、彼とは友達の距離感でいたかった。一緒にご飯を食べたり、ドライブしたり、それでよかった。それ以上に進むことが、どうしてもできなかった。そんな私との気持ちの温度差が、この空気感を作っているんだろう。
女は思われる方が幸せだと、誰かが言っていた。それは本当に共通項なんだろうか。確かに私が追いかけていた恋は、どれも上手く行かなくて、苦しい気持ちがほとんどだったけれど、今はまた別の意味で苦しい。期待してほしくないから、距離を取ろうと連絡を置くと、嫌なことした?と聞いてくる。彼は何も悪くない。会いたくないわけではないから、遊びに行けば期待させてしまう。男と女の友情は、やはり成立しないのだろうか。
「この前誕生日だったんでしょ」
彼は、後部座席からクーラーボックスを取り出した。なんだこれ?と目を点にする私に、にっこり笑いながら蓋を開ける。その中には、私が近所のコンビニに売ってないと話していたアイスクリームが10本ほど入っていた。
「え、これ!」
思わず声をあげてしまう私に、彼はにっこり頷くだけだった。もう販売終了という情報を得て、半ば諦めていたフルーツ牛乳味のアイスを、彼はスーパー4軒と、目についたコンビニ10軒ほど回ってくれたそうだ。
「俺が知ってる欲しいものってこれぐらいだから」
その言葉に、とてつもなく胸が苦しくなった。思い返せば、一定の距離感を置くために、あまり自分の話を彼にしていなかった。アイスの話なんて、帰りの車の中でした本当に些細なものだった。それなのに、彼はその話をきちんと覚えてくれている。
もし。
もし、私が彼を好きになれたら、
きっと幸せなんだろう。
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