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家探し備忘録 〜契約編2〜

前回の「契約編」で気持ちよく完結させたつもりだったが、その後も忘れるのが惜しい教訓を得たので備忘のために記録しておく。

過去の記録はこちら↓

契約書の取り交わし

初期費用の入金を済ませると、C社担当者から「鍵の引き渡し日に来社いただき、対面で契約を行いましょう」と提案された。

その日は引っ越し業者による搬入が予定されており、フリータイム便のため作業の開始時間が読めない。契約書類の内容確認、記入、押印、重要事項の読み合わせなど、時間を要する手続きはあらかじめ済ませた上で、当日は書類の提出と鍵の引き渡しだけで済むようにしておきたかった。

その旨を伝えると、契約書類の郵送とリモートでの重要事項読み合わせを承諾してくれた。書類は契約日の4日前に到着し、重要事項の読み合わせは契約日の前日で約束を取り付けた。

鍵の引き渡し日に引っ越しをするなんてギリギリにもほどがある、と思っていたが、結果的にこの選択をしておいて良かったと思う。なぜなら、分厚い契約書の内容を精査する時間が持てたからだ。もし、鍵の引き渡し日に初めて契約書を手渡されていたら、その場で20ページ超の込み入った内容を理解して判を押すことは不可能だったと思う。

契約書の内容確認と浮かび上がる疑問点

職場の最終出勤が迫っていたこともあり、3月前半はとにかくバタバタしていて契約書に目を通せたのは重要事項読み合わせの前夜だった。

気になった点は以下の通り。

①共益費が存在しない物件なのに、共益費に関する記載があるのはなぜ?

②賃料更新の通知タイミングはいつ?

③「承諾無き共用部への私物設置は契約解除」と記載されているが、自転車を廊下に置いていた隣人はどうなる?

④「物件の一部が減失」とはどういう状況のことを指す?

⑤「退去時のエアコンクリーニング費とハウスクリーニング費は賃借人が負担」と記載されている特約を削除してほしい

⑥鍵交換費用の賃借人負担について記載がないのに支払わないといけないのはなぜ?

⑤のクリーニング特約は、仲介手数料の全額賃借人負担の件と同様、賃貸契約の不文律としてまかり通っている。居室の原状回復義務はオーナーにあるという原則から考えれば、退去時のクリーニング費用は本来オーナーが負担するべきだが、「特約」という形式で一文を添えることにより、賃借人に負担させるケースがほとんどだという。

こんな重要な書類を届いてすぐに確認しなかった詰めの甘さ、契約直前になって再び交渉が発生することへの気鬱、交渉が長引いて契約日が引き延ばされる懸念と家財道具の行く末などを案じ始めたら、身体は疲れているはずなのに不安から目が冴えてしまい、既に搬出を終えて殺風景な自室の底冷えする寝床で震えながら少し泣いた。好きなお笑い芸人のラジオ番組を2本聴いても寝付けなかった。

重要事項の読み合わせ

契約日の前日、職場の最終出勤日当日(!)の朝8:30からZoomを介してC社担当者と重要事項の読み合わせを行なった。先方が契約書の一部を音読し、私が相槌を打つという形骸化も甚だしい(失礼)時間が45分も続いた。

出勤の時間が迫っていたため、慌てて前日のチェックポイントを問い合わせた。

①共益費が存在しない物件なのに、共益費に関する記載があるのはなぜ?
→ひな形を流用しているだけなので無視してOK。

②賃料更新の通知タイミングはいつ?
→確認する。更新日の3、4ヶ月前が一般的。

③「承諾無き共用部への私物設置は契約解除」と記載されているが、自転車を廊下に置いていた隣人はどうなる?
→時間の都合で聞けず。

④「物件の一部が減失」とはどういう状況のことを指す?
→上階からの雨漏りなどを指す。

⑤「退去時のエアコンクリーニング費とハウスクリーニング費は賃借人が負担」と記載されている特約を削除してほしい
→確認してみるが、難しいと思う。

⑥鍵交換費用の賃借人負担について記載がないのに支払わないといけないのはなぜ?
→時間の都合で聞けず。

⑤については「そもそも金額が明記されていない時点で無効では?」と指摘した。今思うと藪蛇になってしまった気もするが、正当な主張だったとは思う。

「30分程度で終了する」と聞かされていた読み合わせは、結局1時間もかかった。Zoomを退室して慌ただしく職場へ向かった。最終出勤日にも関わらず、特約の件で勤務中は気もそぞろだった。

その日の夜にLINEで「特約を削除するのは無理だが、ハウスクリーニング費4万円、エアコンクリーニング費1万円の金額を明記して特約を作り直す」と回答が届いた。私が「削除が難しい理由を教えてほしい。正当な理由があれば納得できるが、今のままでは説明不足に感じられる」と返したところ、一夜明けて鍵の引き渡し30分前に「理由についてはのちほど説明する」と返信された。

鍵の引き渡し

12:00に先方の事務所を往訪する予定だったので、8時台の新幹線に乗って東京を目指した。到着してすぐクリーニング特約について説明されたが、正直に言って全く筋が通っておらず、こちらの期待する回答は得られなかった。

そもそも両者の前提が

【C社ならびに大家の前提】
東京ルール(原状回復にかかる費用はオーナーが負担することを定めるガイドライン)は、悪徳業者が法外なクリーニング費用を騙し取ることを防ぐ目的で存在しているもの。

【私の前提】
東京ルールは全ての賃貸契約で遵守されるべきもの。

という具合で違っていたため、いくら交渉を重ねても話は平行線のままだった。C社担当者「妥当な金額だと思いますよ」私「金額の問題ではないです」というやりとりからも、先方と私の前提に相違があることが見て取れる。このままでは埒があかないので、私は「半額負担まで譲歩する」と食い下がった。目の前でC社担当者が管理会社に電話をかけ、その旨を伝えていたが、電話を切った担当者を介して聞かされたのはこんな言葉だった。

「半額負担の交渉はできない。家賃減額や敷引きの撤廃など、こちらは十分に譲歩しているので、クリーニング費用まで交渉されるなら他の方に契約してもらいたい」

今思い出しても憤怒で顔が熱くなる。本来であればオーナーが負担して然るべきものを、特約という形でお願いされて賃借人が負担するという構図なのに、そのお願いが通らなかったからといって契約日当日に契約破棄を匂わせてくる管理会社への不信感が一気に募った瞬間だった。まじでむかつく。

決着

疲弊した私は、なけなしのプライドから少し大きな声で「わかりました、こちらが譲歩します」と告げた。クリーニング費用の金額が明記された特約は後日郵送で受け取ることとなり、それ以外の箇所の押印を済ませて鍵を受け取り、仲介業者の事務所を後にした。

結局、どこまでいっても家を貸す方が強くて、借りる方が弱いのだという現実を突きつけられた1ヶ月だった。怒りと悔しさで血が上った頭を冷やそうと、事務所近くの移動販売車でチョコバナナクレープを買ってベンチで貪っていたら、さっきまで対面していたC社担当者が目の前を通って気まずかった。知らんふりをしつつ、クレープを頬張る人史上最もふてぶてしい表情で食べ進めた。

内見以来初めて居室に立ち入り、明るい電灯のもとで点検した室内は築年数相応の傷やガタが目立った。ダウナーな気分で空っぽの部屋に体育座りをし家財道具の到着を待ったが、搬入を担当してくれた引っ越し業者の手際の良さや、開栓を担当してくれたガス会社のおじさんの優しさ、愛着のある家財道具が並ぶ様子に、強張る心は少しずつほぐれていった。

あとは修正版の特約の到着を待って押印・返送し、火災保険の証書をスキャンして送付すればC社との関係は終了する。以降のやりとりは管理会社と直接行うことになるだろう。契約更新時に「24時間あんしんサポート」なるオプションの解約を申し出たいが、しばらくは雑念から離れて新しい住まいの暮らしを心置きなく楽しみたい。

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