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午後8時、世界の一画を間借りする

午後8時のカフェは優しい。
訪れたのがどんな人であれ、誰も拒むことなく「どうぞ」と受け入れてくれる。

この時間のカフェは、たしかに現実に存在するのに、どこか現実離れした空間。
今日どこかに「居場所」を落っことしてきた自分が、ほんのひととき、世界の一画を間借りさせてもらっている感覚になる。

ひたすらパソコンの画面とにらめっこする会社員。
参考書の上に突っ伏して夢の中にいる学生。
そして、今日の反省会をするわたし。

それぞれの時間が、それぞれの速さで、それぞれのベクトルで流れていく。それがとても心地よく感じられる。

「明日プレゼンをする」「試験に合格したい」

彼らが人知れず頑張るのは、こんな理由からなんだろうか。

それに比べて、わたしはその日を乗り切ることに精いっぱい。あぁ、なんで今日もわたしってこうなんだろう!って。
自分の嫌いなところをわざわざ生み出しては、温かい飲みものと一緒に無理やり身体へ流し込む日々だった。

いま思えば、このどうしようもなく苦しい時間って、とても「人生をしている」のだと思う。

ここは表舞台ではない、世界の片隅。
もし小説を書くとしたら。物語にはきっと描かれない、行間にある風景。
だけど、日の当たらないこの場所が、時間が、どうしようもなく愛おしい。
たくさん傷つきながら向き合った時間のおかげで、いまは自分を優しく抱き締めてあげられるようになった気がするから。

閉店まで、あと10分。
学生さんも夢の世界から戻ってきたみたい。

さぁそろそろ、それぞれの住む場所に帰ろうか。


これは、社会人になりたてのころの断片。

能動的であろうと受動的であろうと、ただただ、新しい環境へ足を踏み入れることって、それだけで尊いのだと思う。
そして、いまの環境をどう乗り切っていくのか、もしくは環境を変えることにするのか、ひたすら悩む時間もまた同じくらい尊いのだと思う。

わたしの隣に座る新卒の子が、たまたま読んでくれた新卒の方が、そして新しい環境の中で奮闘している方が、どうか優しい夜の中にいますように。

読んでくれてありがとうございました。
それでは、またきっと。

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