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独断偏見音楽談義・はるまきごはん /【夜魔】について語るよ!

このシリーズを書くのは久しぶりになりますね。
前回、フォニイの話を書いてから次は何を書こうかな~と考えていたのですが、私が聴いてて救われた曲について書くか!という結論に至ったので今回はそんな「救われた曲シリーズ」(?)のひとつ、「夜魔」について書いていこうと思います。

夜魔とは?

夜魔は2020年にリリースされたはるまきごはんさんのアルバム「ふたりの」に収録されている楽曲だ。
このアルバムはナナとリリという少女たちの生きた日々を描いた楽曲(以下、「ふたりの」シリーズ曲 と表記)がメインで収録されており、今回紹介する「夜魔」もその「ふたりの」に収録されている楽曲のひとつだ。
「ふたりの」シリーズ曲は、「再会」「約束」「秘密」「彗星になれたなら」「誕生」の5曲を聴くとナナとリリの物語をざっくり履修することができるため、よかったらそちらも併せて聞いてほしい。いずれも各種動画サイトで視聴可能だ。

そんな夜魔だが、今回はナナとリリの物語曲であることをガン無視して感想を書かせてほしい。(え)
何せ今回は、私の私による私のための感想文。
「このフレーズがあったから生きるのが少し楽になった」という観点から見ていく。


歌詞について

歌詞についてというか、この曲の救われポイントは絶対的に歌詞の良さだ。
歌詞をざっくりと見てみると、主人公が深夜に誰に届くわけでもない手紙を独白という形で綴る、という様子が描かれている。
手紙は通常誰かに宛てて書くものだけど、「届かぬ手紙を書いている」という歌詞からも伝わる悲壮感が、それとは打って変わって意外にも明るい曲調とともに載せられている(逆にそれがどうしようもない悲しさを強調するのだけれど)。
さて、この曲は「普通」に生きられないと感じる全ての人に後ろ向きな希望を届けてくれる。
曲そのものはナナとリリが「大人」だらけの世界の中で生きていく中で見た疑問や違和感から生じた絶望を歌っているのだが、その歌詞は確かにこのストレスだらけの社会に生きる私たちへの励ましにどうしても聞こえる。
「普通に笑って普通に泣いて生きてみたかった」とか「普通に笑って普通に泣いて普通の真似をした」からは決められた価値観の中で生きようとしても上手くいかない心境と重ねてしまいたくなるし、「けどなそりゃ上手く生きていけたのなら(中略)お前すらもいらなくなるってことなんだ」はそんな環境から逃げるように音楽に縋る自分の姿と同じだなと思ってしまう。
さらにその上で「気にしてないって気にしてないよいつもこうなんだ るるるるるるる」「そんなこと今更叶わないから今日も眠りにつく」という開き直りにも似た肯定は無理して頑張らなくてもいいというメッセージのように見えた。

普通に働くことも普通に恋愛することも難しい今の自分にとって、周りからの価値観の押しつけは息苦しさでしかないし、「決められたようになんて生きたくなんかない」と半ば反発のようなことを思ってしまう。
何も考えることなく生きていけたら幸せなのかもしれないけれど、それが叶わないから苦しい。
ていうか、たとえ「普通」の中で生きられたとしたって「普通はこうだよね」というのはもう時代遅れというかナンセンスすぎる気もするが。

とにかく、「普通」から逸してしまった人に寄り添ってくれるのがこの歌なのだ。
世の中にいろんな応援歌や励ましソングはあるけれど、その多くは脆い心に寄り添うんじゃなくて折れそうになる心を鼓舞するメッセージを発信しているように思う。
でも、この「夜魔」が贈るのは激励でもなんでもなくて、ただここに在る自分のままでいいと言ってくれるような優しさだ。
後ろ向きな希望。それは無理に頑張るんじゃなくて、たとえ少しくらい卑屈になったってそんな自分を認めてあげようという現在の肯定なのだ。

音について

先ほど既に触れているが、この曲最大のサウンド面の特徴は意外にも明るい曲調であることだと個人的に思う。
正直、初めて聴いたときはびっくりした。え、歌詞はそんなに明るくないのに音は結構明るいぞ!?と。
はるまきごはんさんの曲は、歌詞と音と場合によっては映像もが一体となって儚さを醸し出しているパターンが多く、それに慣れてきた身としてはこの夜魔はかなり異質に映る。
ただし、明るいといっても底抜けに明るいというわけではないため、そこは落ち着いて聴くことができる。
でもこの良い意味での変化球というかアンバランスさがスパイスとなって「普通」に生きられないナナとリリ、ひいては私たちの心模様をうまく切り取っているように見えるのだ。
普通に生きてみたかったよね、でもそうなれないからこのままでやっていくしかなくない?という諦めと葛藤が入り交じった心境が忠実に音になっている。めちゃくちゃ好きだ。

最後に

最後の最後にかなり個人的な話をする。
夜魔を初めて聴いた頃、ちょうど私は精神的に参っていて仕事を休職していた。
新卒で入ったばかりなのになんでいきなりこんなことになったんだとか、周りの同期たちはちゃんと働けているのになんで自分は同じように働けないんだとか、「普通」になれない自分を責めた。
だからこの曲の「普通に笑って普通に泣いて生きてみたかった」というあまりにもド直球な羨望をうたった歌詞に救われもしたし、「そんなこと今さら叶わない」という歌詞には全然違うものに憧れて苦しくなる必要もないかと諭された。

「普通」じゃなくてもちゃんと今日も生きている。
俯きがちな自分をやわらかく包んでくれるこの曲は、きっとこれからもお守りのように響き続ける。

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