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「劇場」での旅

とある講義の課題で提出したエッセイです。
テーマは「旅」。大した旅行の思い出もない私は「観劇」を旅になぞらえて書き上げました。
どれがどの作品か分かる方は…お仲間ですね😏

拙い文章ですが、悪しからず。

 劇場は、私をどこへでも連れて行ってくれる。

 
 例えば、“エッフェル塔そびえる、夢の街パリ”。ピガール広場の赤い風車に思いを馳せ、ムーラン・ルージュでフレンチ・カンカンを堪能した。くるくると回る踊り子たちが煌びやかで、豪華なドレスが鮮やかで。ベル・エポックの華やいだ雰囲気が私の心も躍らせた。
 またある時には、フランス革命にも遭遇した。人々が自由を求め、団結し戦った時代。政府に歯向かう革命家も、命を落とした市民も、自らの意思を全うし力強く生きていた。三銃士が勇猛果敢に戦い、ナポレオンが皇帝に。西洋の高貴な世界観と激情に幾度となく引き込まれた。

 アメリカでは、退廃的で開放的な変遷をたどった。禁酒法時代のギャングたちが取引していた夜もあれば、ハイスクールでプロムが行われていた夜もある。トーキー映画の裏側を眼前にし、スコット・フィッツ・ジェラルドと酒に溺れ、酸いも甘いも経験した。スウィング・ジャズに酔いしれた狂騒の20年代に心惹かれる。

 例えば、“果て無く続くシルクロード”。失われた秘宝を探し、砂漠をさまよった。異国情緒あふれるリズムに身を委ね、砂混じりの風に吹かれた宝石は輝いて。まだ見ぬ世界へ、誘われるまま足を踏み入れた。
 またある時は、インド北部のカシミールへ。ダル湖での身分違いの恋に、図らずも翻弄された。美しく儚い、ひと夏の恋であった。タイの艶やかなお祭りやアラビアでの魔法に満ちた冒険譚も忘れられない。

 
 イギリスでは、メリーポピンズが空を飛び、シャーロックホームズが事件を解決。炭鉱の町からバレエ少年が誕生した日もあれば、靴工場へドラァグクイーンがやってきた日もある。ロイヤルな印象とは打って変わった、想像もつかない非日常を味わうことができる。

 ドイツではベートーヴェンの活躍も目にした。彼が第九を描き上げるまでの苦悩を知れば、出来上がったシンフォニーに誰しも心を震わせるだろう。ベルリンのグランドホテルでは幾つもの人生が交錯していて、若い男爵の燃え上がる恋と哀しい最期を見届けた。


 消えた皇女アナスタシアを捜索したロシアや、青年貴族が復讐に燃えたメキシコ。皇后エリザベートの生涯を追ったオーストリアに、花形闘牛士が身を滅ぼしたスペイン。
 

 日本においても戦国時代から現代に至るまで様々な場所を旅してきた。戦の無情を嘆き、武士の散り際に涙し、降り注ぐ花吹雪には胸の昂ぶりを抑えられない。平凡な毎日に飽き飽きしている会社員が、ダンスを通して情熱を取り戻していく様も眩しかった。
 

 チケットを握りしめ、劇場という名の空港へ。目の前に広がる世界は、いつだって私の胸をときめかせる。劇場は、時を超え、国を超え、どこへでも連れて行ってくれるのだ。
 
観劇以上の旅を私はまだ知らない。

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