『六問室』 短編小説 第一問「教室の幽霊」
夕暮れ時の校舎は静まり返り、蝉の声が遠くからかすかに聞こえるだけだった。生徒たちは、ほとんどが部活動や自宅へと帰り、校舎にはわずかな人影しか残っていなかった。
「この街の地図、なにかおかしいと思わないか?」俺、不来方―潤(こずかた―じゅん)は、廊下に貼ってある高校周辺の地図を見てそうつぶやいた。
「どうおかしいんだい?」俺と同じクラスの四条―真(しじょう―まこと)が、少し先を歩いていたところを、振り向いて、俺の独り言に質問をしてきやがった。真面目なフリしてるくせに、カバンにつけられたキーホルダーは可愛らしいキャラものばかりだ。正直、こいつとはもう関わりたくない。もううんざりなんだ。
「あーっ!俺、忘れ物しちまった!」と、俺は声を高々にあげて言った。
「忘れ物?何を忘れたんだ?」まことが尋ねる。
「ちっ……」俺はまことを無視して、忘れ物をとりに戻った。
「不来方君!」
「ああ!イライラする。忘れもんした」と、恭仁れお(くに―れお)が不機嫌そうに呟きながら階段を上がってきた。「お前らも忘れもんか?」とだるそうな顔で睨み付けてきた。
「どうしたん、みんな揃って」と、淀川しんぺい(よどがわ―しんぺい)先生が微笑みながら話に加わった。
「淀川先生……!いいところに、あの、教室の鍵を閉めるのは少し待っていただけないでしょうか。教室に忘れ物をしたんです」まことが言った。
「ほうほう、わかった。一緒に取りに行こう。暗くなる前に済ますぞ」
教室に向かう途中、彼らの足音だけが廊下に響いた。
その時、着信音が鳴り響く。
「うわああ!なんだ?!」恭仁君が意外にもそう叫んだ。二歩下がったところに一瞬で移動している。
「申し訳ない。僕の携帯の着信音」と、まことはスマホを取り出した。俺は、背後から少しのぞいてみた。ゾッとした。画面には、未開封のメッセージと不在電話履歴がスワイプした先に途方もなく続いていた。しかも、全て母親からであった。
「ここだ」と、まことが教室のドアを指差した。「早く取って、帰ろう」
ドアを開けると、教室内は薄暗く、外の夕焼けが赤く差し込んでいた。
「なんだか寒気がするな」と、俺はつぶやいた。
「ただの気のせいだろ。早く済ませて帰ろうぜ」と、れおが教室の中に足を踏み入れた。そしてそれに続いて、一番後ろにいた俺も教室に入る。その瞬間、ドアが勝手に閉まり、重々しい音が響いた。
「何だこれは……?!」しんぺい先生がドアノブを回そうとしたが、ドアはびくともしなかった。
突然、教室の中央に人影が現れた。それは奇妙な衣装をまとった人物で、その目は不気味な輝きを放ち、椅子に座っていた。
「不幸だねえ、不幸だねえ」と、その人物はふざけた声で言った。「六月六日、6時路地6分66秒……この時を待っていた。」
「誰だ、お前は…?」れおが問いただした。
「私は管理人だ。ここから出たいのなら、教室にある6つの問題を解くのだ」と、管理人はニヤリと笑った。
「問題を解かないと出られないってことか?」じゅんが不安げに聞いた。
「その通りだ」と管理人は頷いた。「ただし、間違えたら…化け物を呼ぶことになる。もしその化け物に捕まったら最後、二度とここから出ることはできないから注意するんだな」
「ば、化け物だと?ふざけたことを言うんじゃない!」すると、あのいつもは優しいしんぺい先生が突然、鬼の形相で大声を出した。「化け物なんて存在しない!化け物は化学で証明することはできない。絶対にあり得ないんだ!」
「先生、落ち着いてください。そんなの今どうだっていいことじゃないですか」まことがしんぺい先生を落ち着かせる。
「さっさと問題を解こうぜ」と、れおが言った。
管理人は、不気味に笑うと、席から立ち上がり、黒板にチョークで何かを書き始めた。それは謎めいた数式だった。
「これが最初の問題だ」と管理人は言った。「この数式を解読し、正しい答えを導き出せ」
ホワイトボードにはこのように書かれていた。
「A=1,B=2,C=3」
「10+5+4=19」
「2+10−2=8」
「1+2×3−8=1」
「5−3−1×4=4」
「30÷5×3−3=15」
「2×3×4×5×6×7÷22×10=23」
「これって…ただの数学の問題?」まことが疑問を投げかけた。
「いや、何か隠されている」と、じゅんが数式を睨みつけた。「これはただの数字の羅列じゃない。何かきっと意味がある」
まこと、じゅん、れおの三人は数式に取り組み始めた。しんぺい先生も一緒に考え込んだ。
「わかった!」と、じゅんが突然叫んだ。「この数式は、アルファベットの順番を示しているんだ!」
まことが俺の考えに従って数式を読み解くと、答えは「S H A D O W」と浮かび上がった。
「こ、これが答えか?」まことが管理人に尋ねた。
「その通りだ」と、管理人は満足げに微笑んだ。「だが、これで終わりではない。次の問題に進もう」
「さすがだ、じゅん」しんぺい先生が褒めてくれた。
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