【連載小説】『スピリット地雷ワールド』《第四話》
プロローグ
鍵詰めのついた針が何本も体に刺さる。そんな簡単には離れない痛みが身体中に巡る。
中学校へ向かう愛音の足取りは、足枷をはめているようにずっしりと重い。前は霧で包まれているように真っ白で、頭のネジも鈍い。油をささないとこれはダメだ。
ああ、愛音の表情はなんて酷なのだろう。顔は青白く、まるで生気が抜き取られているようだ。悪党に親を残酷にも殺され、家に帰ればその悪党にこき使われる生活を送っているような、無感情な目。一体彼に何があったのだろうか。
これは3年前、中学1年生の愛音の過去回想である。
*人物紹介*
愛音
料理がうまく、女子力抜群の男子高校生。
闇葉
いわゆる地雷系女子、しかしそれには深い理由が……。
_________本編_________
第二話 愛音originストーリー
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彼はいつだって、暗い顔をしていた。ここ最近は本当に酷いのだ。今、愛音はさっき述べた通り、学校に向かっているところであった。
愛音のバッグの中には、母親お手製の美味しいお弁当箱、父親が買ってくれた水筒には暖かいお茶がたっぷりと入っている。水筒とお弁当箱は、大切にバッグの底へ認められていた。
つまり、家の家族たちが億劫なのでは無いようだ。彼の表情がいつも暗い理由は、どうやら、これから向かう学校にありそうだ。
変わり映えのないまま、学校に到着した愛音は、靴箱に手を入れた。ジャリっといつものように、冷たい音がする。そこに上靴は確かにあった。私はてっきり、上靴が毎日隠されて、彼の表情が暗くなっていると思っていたが、そうではないらしい。きっと他に理由があるのだろう。
底が冷えた階段を上り、1-1、1-2、1-3のプレートのにぎやかな声を横目に通りすぎ、1-4の教室に入った。
「お、愛音!やっときたな」
「久しぶりだね、二週間ぶりぐらい?」
「ちゃんと学校こいよな!ずっと待ってたぞ!」
そんなクラスメイトの元気な声が聞こえた。少しの違和感を残して。そう言い終わると、颯爽と隣の別のクラスメイトと再び話し始めたのだ。愛音のことはそっちのけで、ただ挨拶を交わしただけだった。それはあまりにあっさりとした、一瞬のことだった。それだけ簡単に終わらせられるほど、愛音の重要度はたったそれだけだったのだろうか。彼らにとってずっと学校を休み続けていた愛音よりも、今の会話を最優先したかったのだろうか。
愛音は不登校生徒だった。なぜそうなったのか、クラスメイトたちの冷たい態度のせいだろうか。
愛音は知っている。その彼以外にも、不登校の生徒は一クラスに数人程度必ずいる。そして教師は言うのだ。
「もし、田中が学校に来たら、声をかけてやってくれ。あいつには居場所が必要なんだ。だから気軽に話しかけてほしい」
中学校までは、義務教育があたりまえだ。だから何だというと、教師からしたら、学校をなん度も休み続けている学生は、学校のルールに反した問題児。何としても、学校に来てもらわなくては困るのだ。
おそらく、愛音の時も、こんなことをクラスメイトに言ったのだろう。
「愛音をずっと待っていた」
そんな言葉を言われれば、一瞬だけでも、愛音は勘違いしてしまっただろう。『僕に友達がいたんだ』って。
教師は自分の都合を押し付けて、子供だって利用する。言い方が悪くなってしまった。教師たちも仕方なくやっているのだ。やらざるおえないのだ。その真髄にあるのは、仕事上の理由でも、大人としての責任でもない。しかし、それはまた別の話なのだ。
愛音が学校に来る前から暗かった表情の理由は、実に歪なものであった。教師から頼まれたクラスメイトたちは、愛音に上辺だけの挨拶を送った。先生のやり方を知っている愛音はこれを、何よりも冷たく、寂しいものだと痛いほど知ることになっただろう。
これは誰も悪くないのだ。クラスメイトも、愛音自身も、教師でさえも、誰一人、愛音を苦しめようなんて考えていない。だが、こんなストーリが生まれてしまったのだ。
愛音はこんな学校生活を送るたびに、学校がイヤになってくるのだろう。当たり前だ。
『本当はもっとクラスメイトとお話がしたい。でもあんな、中途半端な友情なんか絶対にいやだァ……』
愛音はそんなことをぼんやりと思っていたのだ。そう、ただぼんやりと、明確に答えは出ていない。誰のせいなのかをいまだ追い求めているのだ。
だから、愛音は心に刻み、焼き付け、印を深々と掘った。決して消えないように。決意したのだ。絶対にもう中途半端な終わり方はしたくない。そう思うようになっていったのだ。
ああ、どうやら、愛音の眼がもうじき覚めるようだ。彼の辛い回想は終わり、いよいよ、パイナップルを食べ、気を失った後のお話が始まる。さあ、今度こそ、彼の不思議な旅が始まろうとしている!
続く……
次回 明後日 投稿!
いよいよ、精神世界編スタート。
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