千二百文字小説(10/6)
かしましい。僕の声が大きすぎて。
いつからこんなにも外の世界は静かになってしまったのだろう。夜遊びに行くのをやめたから?人と会うことを諦めたから?
僕は電車が毎朝早朝から通る高架下に住んでいた。
スマホを開く、待ち受けには彼女が写っている。
管理人、まだかな。今日は珍しく遅れてるじゃないか。とその時だった。
「大変お待たせいたしました。では参りましょう」
その掛け声と共に、僕がやってきたのは高層ビルの屋上。仕事はいつも危険と隣り合わせで、その仕事中はいつも独りである。
「それでは、お気をつけて」
あーなんて言ったらいいか、まあ言うならばこれはバイトで、お金を稼ぐためにやっていること。
目標はビルとビルをつなぐ横幅30cmの一本橋を渡り切ること。落ちてしまえば、何があってもまず助からない高さである。
「でも、僕にとってこれは数ある人生の弊害に過ぎない。乗り越えられない問題じゃないんだ。たとえ孤独であっても乗り越えてみせる」
不安と孤独と一緒に眠る。一本橋の真ん中には休憩できる部屋があった。部屋といっても、屋根はおろか、壁すらない。一畳分のアクリルの板とベッドがあるだけ。
またスマホを開いて彼女の写真を見る。
彼女のことが好きで、好きで、会いたくてたまらなくなった。
けど僕の脳みそと彼女の脳みそはあてはまらないくて、柄も違う、多分、ほぼ、確実に端から端までの仲だったりする。
親友じゃない友人は別れろと無責任に言うので腹がたった。
「いや、違う。本当は僕のことを考えてくれてる。わかってる、わかっている……」
本音は寂しい。彼女も寂しがり屋だった。でも僕は、元々は寂しがり屋じゃないんだ。
アクリル板が繋がって途方もなく続いている一本橋一体いつになったらゴールが来るんだろう。ゴールが見えない。わからない。一体僕はどこにいるんだろう。
僕も寂しかった。だから、受け入れられない。受け入れるか入れないかで頑なになっているんじゃなくて、本能的で根源に近い何かで塞がってて、受け入れられない。
「”僕には自信がないんだと思う”」
みんなは僕の知らないところで応援しようって言って、いつも支えてくれていることは知っていた。
「そう僕は自信がないんだ……!だからいつまで経ってもゴールが見えない。なぜなら一歩も最初から進んでいないのだから!……ああ、僕はずっとひとりぼっちだ」
誰か、僕の本音を聞いてよ。僕を理解して僕にそれを教えてよ。僕は一体誰なの?「あ、この言葉」なにか腑に落ちた。安心してる。
誰か独りの僕に会いにきてよ。真っ暗な部屋に独りにしないでよ。ここはあまりにも寒くて高いよ。いつの間にかこんなところまで来てしまってた。
「もう、辛いよ」
部屋の隅に立つと、恐怖の音が聞こえた。
誰も信用できない。自分を信用できない。
「何もわからないよ。数ある僕の中で一体誰を信じればいいの?」
タイトル『白黒』
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