お互いこれといった趣味はなく、敢えていうなら寝るまえのツムツムと時々Switchでマリオカートをやるくらい。それで特に不満はなかったし、何気ない日常を過ごせることに充分すぎる幸せを感じていた。 そんなある日、彼のおばあ様(祖母)のお家に伺った時出会った、サボテンに心惹かれるものがあった。それは、彼も同じだったらしくおばあ様に小さなサボテンを一つ譲ってもらった。何もなかった小さなアパートのベランダに、ひとつの緑が目立っていた。そこからすぐ、二人の共通の趣味になった。平日は
鬱状態が続き、リストカットの傷も増え、風俗の仕事も手につかなくなってきた頃。彼の提案で、彼の地元に旅行に行った。今考えれば、潮時だったのだろう。彼と出会って半年が経とうとしていた時だった。 3泊4日程度の旅行はあっという間に終わりを迎え、家に帰ってきたと同時に別れを切り出された。私が他店に行っていたことを、彼は知っているようだった。浮気と言われ、何も言い返すことができなかった。明日には出ていくと言って、彼は寝た。その晩私は、薬を過剰摂取して自殺を図った。 目が覚める
某マッチングアプリでホストと出会って付き合い、同棲を始めた。(あなたシリーズお読みください。)戻れるならあの時に戻ってやり直したいと思う。 だいぶ話を端折るが、当時は洗脳状態で彼が私の全てになっていった。ある日彼の紹介で、夜の仕事を紹介するスカウトさんと話をすることになった。話はとんとん拍子に進み、気づけば私は風俗嬢になっていた。彼の売り上げと彼の借金返済の為に、体を売ってお金を稼いだ。私がお金を稼がないと、彼と一緒にいられなくなる。その恐怖に支配され、心を殺して彼の為
ある日突然眠れなくなった。 当時を地元を離れ、会社員をしていた。会社の仲間に恵まれ、人間関係のストレスなんてほとんどなかった。が、中学2年生辺りから過食嘔吐に悩まされていた。実家に住んでいた頃は毎日3食食べていたが、それもすぐに吐き戻してしまう。痩せたいという思いより、食べたものを吐き出す行為がストレスの捌け口になっていたように思う。 一人暮らしを始めてからは、悪化する一方だった。仕事終わりコンビニに駆け込み、弁当2つ、菓子パン4つ、コンビニスイーツ2つ。なんとなく
はじめましてから2週間。付き合う段階を一段飛ばした仮婚約。久しく感じたことのない、心地の良い日常を噛み締める。近所の居酒屋で夕食を済ませて。寒さに身を寄せ小走りで帰宅して。窮屈なシングルの布団で、あなたの頬を撫でながら眠りに落ちる。朝、目が覚めるとあなたが静かな寝息を立てて、隣で眠っている。穏やかで、安らかな、私の居場所はここだ。あなたの側で、なんてことない日常を過ごすことが、私にとっての療養だ。私にとっての幸せはこれだ。そう強く、確信した。 私はもう直ぐ、地元へ帰る。
靄がかかって霞んでしまっている記憶は、どこか儚くも鮮明で、目を瞑れば昨日のことのようにはっきりと思い出すことができる。いつかの日の、微睡のような。 夜の浅草商店街。シャッターが並ぶ中、ぼんやりと佇む雷門の提灯だけが、明るい。ほろ酔いのふんわり心地いい気分で、2人手を繋ぎ夜道をのんびりと歩く。人生初のホッピー通りは最高で、楽しかったねなんて適当な会話をしながら予約しているホテルへと足を進める。 道中、路地裏に差し掛かったときだ。適当に続いていた会話がプツリと途切れ、視
あの日から数日が経った。私の中でのあの人の印象は“天然タラシ”。本心か建前か、あの人は息をするように可愛いだとか会いたいだとかを口にする。嬉しい、ありがとう、私も会いたいと素直に言いたい。でも、それではいけない。心を許してしまったら、頼ってしまったら、好きになってしまったら。また、過去の過ちの繰り返しになってしまう。 それでもあの人は私の心にどんどん踏み込んで来た。体調を心配してくれたり、素直に褒めてくれたり、少し背中を押してくれたり。私の求めている言葉を、全てくれる。
真っ暗なトンネルが延々とつづいているような。出口が全く見えなくて、ただただ機械のように足を動かしては、時々壁にぶつかりながら進む。心と体が分離して、やりたいこととできることが一致しない。そんなやるせなさともどかしさに悶え苦しんでは、周りに当たり散らし、どんどん自分を嫌いになっていく。終わりの見えない真っ暗闇の生活、この先まだ続いていく人生に絶望しか見えなかった。 「生きているだけでこんなに苦しいの、生きているだけでこんなにも辛いのなら、死んでしまいたい。」 私の一番の
久しぶりにお酒を嗜み、少しばかり酔ってしまった。そんな時に、尊くて愛しくてたまらないあなたが目の前にいるなんて。 「私ね、あなたが思っている以上にあなたのことが好きなの。」 「もっと教えて。」 床にへたり込んだ私は、椅子に腰掛けた彼のお腹に顔を埋める。彼の匂いと体温が私を包んで、暖かい手が優しく髪を撫でる。なんて心地いいんだろう。心臓の音が心地よく響いて、髪を撫でてていた手は頬を包む。このまま溶けて、一つになってしまいたい。 「あなたになりたい。」 あなたになりたい
靄がかかって霞んでしまっている記憶は、どこか儚くも鮮明で、目を瞑れば昨日のことのようにはっきりと思い出すことができる。いつかの日の、微睡のような。 近所のおばちゃんが世間話をする声。新聞配達のバイクが駆け抜けていく音。西洋風の縦長の窓から差し込む青空には、雲一つ浮かんでいなかった。眠い目をうっすら開けると、まだ静かに寝息を立てる彼が隣にいた。昨日は楽しかったなと、昨晩の出来事に思いを耽る。 彼の口から出る話題は、どれも私の興味を釘付けにするものばかりだった。留学に行っ
新しいお洋服に袖を通して。新しいブーツはこの日のために履かずにいた。香水は控えめに。アクセサリーはパールとゴールドで統一してお上品に。お気に入りのバッグを手にして玄関を出る。待ち合わせの時間より少し早くつき、彼が来る前にホテルのチェックインを済ませて近くのカフェで彼を待つ。 初めて見る彼の私服。大人で、お洒落で、上品さが漂っていて、私が隣に並んでいいのかと気恥ずかしくなる。でも彼はそんな私をよそに、今日も可愛いねと優しく微笑みかけてくれるだろう。 彼と初めてのディナー。
#6 幸せのハードル Fさんと別れ、職場が変わって住む場所が変わっても、Fさんのことを何だかんだ忘れられずにいた。環境が変わってしばらくは、生活リズムや人間関係、新しい仕事に翻弄される毎日が続き、いつしかそれにもなれてきた頃、心の病気になり休養することとなった。転居してまもなくした頃からマッチングアプリを再開していたがFさん以上に興味をもてる人には出会えず、精神的も身体的にも不安定さを感じていた頃、Kさんと出会った。 Kさんは私よりもかなり年上で余裕があった。人
#5 価値観の価値観 それからしばらく傷心していた私は、恋愛休戦期間にはいっていた。それなりにデートしたり、からだの関係を持つことはあっても進展は特になく。のらりくらりとしていた、肌寒さを感じる秋口の頃。時同じくして、同棲していた彼女に振られた職場の同僚Fさんと、ひょんなことから飲みに行くことになった。Fさんとは適切な距離感を保ち、いち同僚としてそれなりに仲良くしていた。彼女を溺愛していて、結婚まで考えているなんて話も耳にしていたため、傷心中同士、ある意味盛り上がるだ
#4 良い女を演じない 名ばかりの立春が過ぎたのに、まだコートが手放せない3月。付き合っていた彼氏と訳あって別れ、もやついた気持ちのまま東京出張に来ていた。この煩わしい気持ちを誰かに聞いてほしいが、生憎今はほぼ未踏の地、東京。しかし、気持ちを押さえきれなくなった私はまた、某マッチングアプリで小言を垂れる相手を探した。そこでタイミングよく飲みの誘いをくれたのがNくんだった。 何度か出張で東京には来ているものの、慣れない人の多さに緊張しながらも辿り着いた待ち合わせ駅。
#3 尊敬できるところありますか Hさんと別れてしばらくした頃、マッチングアプリで出会ったRくん。体育会系のガッチリした高身長とは裏腹に、当時はまっていた古着が趣味で独特のファッションセンスと大型犬の様な人懐こい雰囲気に惹かれ、お付き合いすることに。Rくんとの交際は自分で言うのもなんだが、若くて年相応な楽しいものだった。独り暮らしの彼の家でお泊まりをしたり、一緒にご飯をつくって食べたり、割り勘でRくんの家の近くの居酒屋に行ったり、1日中セックスして映画を見て、夜中の
#2 女は愛されてなんぼ? このエピソードに関しては、未だに最善が何だったのか、今の私ならどうしているのか、明確な結論が出ていない。が、綴りながら答えを出していければと思い、記憶を掘り返していく。 入社してすぐの5月。新入社員歓迎会と言う名の飲み会に参加していた。20代前半の男性社員4、5名に新入社員の女子4、5名で焼き肉屋に連れてきてもらい、まだ慣れないお酒の味と男の先輩たちとの飲み会という場に背伸びしたような感覚だったのを覚えている。そのなかでも一際存在感があった