20さい恋愛奮闘記2
#2 女は愛されてなんぼ?
このエピソードに関しては、未だに最善が何だったのか、今の私ならどうしているのか、明確な結論が出ていない。が、綴りながら答えを出していければと思い、記憶を掘り返していく。
入社してすぐの5月。新入社員歓迎会と言う名の飲み会に参加していた。20代前半の男性社員4、5名に新入社員の女子4、5名で焼き肉屋に連れてきてもらい、まだ慣れないお酒の味と男の先輩たちとの飲み会という場に背伸びしたような感覚だったのを覚えている。そのなかでも一際存在感があったのが彼、Hさん。端正な顔立ち、とは正反対のいわゆるブ男。だけれど気遣い上手で場を盛り上げるのも上手で、いい人なんだということはすぐにわかった。ほろ酔いになり、二軒目に移動する頃にはHさんが私の隣にくっついていた。二軒目は先輩たち行きつけのバーで、同期の数名は既に帰宅していた。浴びるほどお酒を飲んで、楽しい人たちに囲まれて、社会人の遊び方を体感し気分は最高潮。気づけば同期の一人と先輩がガッツリキスをしはじめ、しばらくすると二人、その場から消えた。私もちゃっかりHさんと手を繋いでいた。Hさんは私の腰を抱きながら、ほんまにかわええなとか、ええ女やねとかベタ褒めだった。しばらくしてお開きになる時、Hさんから家に誘われ、ベロベロの私はなんの迷いもなく了承した。
男の部屋を絵に描いたようなHさんの部屋にはいるなり、キスをされて、あとは身を委ねるのみだった。ほんまにかわいい、幸せすぎて怖い、なんて大真面目に呟きながらHさんは私を抱いた。事後、他愛ない話しているなかで、Hさんに彼女がいることを知った。が、彼女との関係は良好ではないこと、私への溺愛っぷりを見ると彼女と別れるのも直ぐだと分かった。彼女には申し訳ないけれど、出会ってしまったのだから仕方がない。そんな考えが浮かぶ反面、早くも職場内の人間と関係をもってしまったことに少しの焦りも感じた。その後すぐに、Hさんは彼女と別れた。
後に知ったことだが、Hさんは社内の色々な女の子を食っているらしく、言わば遊び人らしかった。元彼女と職場でくっている女の子は別、みたいな。そんなHさんが彼女とすぐに別れて、休みの日には旅行に連れていってくれたり、記念日にはネックレスと、きれいとは言いがたい文字でお手紙を書いてくれたり、Hさん自身も驚くほどにHさんは私に惚れ込んでいた。私自身も、大切にされていて、愛されているという確信がもてていた。
それでも私のなかでの中でのHさんは”いい人”以上になることはなかった。Hさんへの態度は気分次第。本当にひどいものだったと思う。いい人だから、私のことが好きなんだから許してくれるだろう、離れていくことはないだろう。そんななかで数ヵ月が経ち、Hさんが前々から計画してくれていた旅行を気分じゃないの一言で断った。今思えば、最悪な女だったし申し訳なくて仕方がないのだが、それは仕方がないよね、と快諾してくれた。その後すぐ、Hさんに別れたいと伝えた。Hさんは最初こそ受け入れてくれなかったが、しばらくして諦めがついたようで嫌々受け入れてくれた。少しして、Hさんは以前付き合っていた元カノとよりを戻したと風の噂で聞いたけれど、なんとも思わなかったことが悲しかった。
別れてからも、Hさんはいい人だった。職場が同じだけに、顔を合わせる機会があっても変わらず優しかったし、気まずくなるなんてことはまったくと言って良いほどなかった。私自身、別れてからの方がHさんにありのままで、素直に接することができていた気がする。それから一年ほど経って、私が転職を決め会社を離れることが決まった頃、Hさんの周りの人たちから聞かされた。
「Hと飲むときは決まって君の話を聞かされていたよ。本当に良い女だったとか、可愛くて仕方がなかったとか。」
そんな話を数人から聞かされ、改めて愛されていたんだと気づいた。一人酒をして酔いつぶれた夜、Hさんに久しぶりに電話した。どうしたん急に、と驚きつつも電話越しのHさんは変わらず優しかった。
「会いに来て。今さらだってわかっているけど、本当に大切にしてくれて、愛してくれていたって気づいた。何であの頃は大切にできなかったんだろう、何で気づけなかったんだろう。今、凄く後悔してる。」
どこまでもわがままで自己中だと思いながらも、お酒の勢いで涙も言葉も溢れて止まらなかった。どこかでまだ、Hさんは私のことを好きでいてくれていると思っていたのかもしれない。でもHさんの口からでたのは違っていて。
「遅いよ。いや、俺がもっとあのとき引き留めてれば、もう少し待っていれば違ったのかも知れないけど。もう、戻れないよ。一度離れた俺を一途に待っていてくれた今の彼女を大切にしなきゃいかん、大切にしたいって決めてしまった。でも本当に、めちゃくちゃ君のことが好きだった、アホだと思うくらい。」
Hさんと別れて2年以上たつ。つい最近、例の彼女と結婚したとSNSを通じて知った。あれ以降Hさんと直接会うことは1度もなくて、私の誕生日と引っ越しのタイミングで、なにかとメッセージが来たけれど長ったらしい会話が続くことはなかった。いつもメッセージの最後は、幸せになってくださいと添えられているのがHさんらしかった。
人を愛するって、どうしてこう上手くいかないんだろう。愛されるって凄く幸せなことなのだけれど、同じ力量で返せないと罪悪感があったり相手のことが嫌になってしまったり。未だにどうすることが正解だったのかなんて分からないけれど、いい人だから好きな人になるわけではないんだなと実感した、忘れられないエピソード。何事もタイミング。気づくのもアクションを起こすのも、恋に落ちるのも。
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