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盛欲4

 駅を出て橋を渡り終えた。そこからしばらく真っ直ぐ続いている道を歩いた。運が良かったのか、信号が3連続青だった。今のところ一度も止まっていない。またひたすら歩いた。
足の裏がジンジンと痺れるくらい疲れた。
僕は身長が173センチで決して大きいとは言えない微妙な身長な為、自分を大きく見せようとよく外を出る時なんかはつま先立ちしながら歩いたりしていた。その癖が付いたのか、僕より少し背が低いか、高いかという人に遭遇したらよくつま先立ちしていた。けれど、たまに「あれ?こいつ何か高くね?!」と気付く人もいたから、足元を見られたら元に戻していた。そんな昔の懐かしい事を思い出していたら信号が黄色だった。走って渡ろうと急いでも間に合わなかった。その間に走ってかいた額を流れる汗をハンカチで拭いた。

 スマホでグーグルマップを開いて、マッサージ店までの距離を調べた。どうやら目的地であるマッサージ店は現在地から約3キロ離れている。そんなにあるのかと驚く暇はなく、グーグルマップを片手にひたすら歩くしかない。見るからに最初は真っ直ぐな道が続いていて楽だと思っていた矢先、住宅街に入ると曲がっての繰り返しであっちこっち行かなければならない。住宅街であっちこっち曲がるのはややこしくなり、巣の中の蟻のような気持ちになる。それが嫌だから、今度は別ルートがないかマップで調べてみた。そうしたら今度は、車が沢山通る大通りに出て遠回りするルートが出てきた。どうやらグーグルマップは僕を無理にでも歩かせたいらしい。ここ1週間外食ばっかで筋トレをろくにしていなかったツケが回ってきたかと思った。まぁまだ蟻の気分になるよりはマシだと思ったから遠回りルートを選んで歩き出した。ひたすら真っ直ぐ続く終わりのない道を歩いていると、光を1つも通さない暗闇の中を彷徨っているようでなんだか怖い。一瞬すれ違う大柄の男の僕に対する視線、僕を抜かしていく車に恐怖を覚えた。汗をかいているためか、武者震いで背中に寒気が走った。歩く速度が少しだけ遅くなった。

 喉が乾いたことすら忘れさせるくらい歩いていた。ファミリーマートが横にあるのを気付くと扉に吸われるように僕は入店した。「いらっしゃいませ」と元気よく言う大学生男子の声が耳に残った。冷房が効いているのか、外の熱気を忘れさせるくらい涼しい。8月終盤に差し掛かっているのになぜこんなに暑いのかと心の中で文句を言った。

 駅を出て20分が過ぎようとしていた。とりあえず、喉を潤す為500ミリリットルのペットボトルを1つ買った。レジにいくと目の前には元気な声でいらっしゃいませをしていた大学生アルバイトが立っていた。「ありがとうございます。お会計116円でございます。」とハキハキ話した。僕にはコンビニ店員に対して偏見があった。それはコンビニで働いている大学生はマニュアル通りの凡読みをする情けない奴が多いと。特に男子に多いという今考えたら極めて失礼な偏見を持っていた。しかし、この人はその偏見を払拭させるくらい僕に衝撃を与えた。僕も見習おうと思った。僕は116円ちょうど自動レジで払った。「レシートは要りますか?」と聞かれたが、この人の輝いた目を見ているとつい「要ります。」と答えてしまった。普段はレシートは貰わない。店を出て、ペットボトルのキャップを捻って開けて水を4口飲んで歩いた。マッサージ店まであと1キロ。僕は2キロも飲まず食わずで歩いていたのかと関心してしまった。

 水分を補給してそこからは駅伝選手のようにラストスパートを掛けた。いや、どちらかと言うと競歩の選手に近い。早歩きというものはここまでキツいのかと思い知らされた。当然1キロ続くことはなく、頑張って10メートルくらいは早歩きした。2キロも歩いた疲労がここできていたからだ。でも元バスケ部だと自分を誇りに思った。マッサージの時僕の太ももを労ってもらおうと考えた。

 信号で止まった。今日で2回目だ。マッサージ店は左に曲がりあと40メートル歩けば目と鼻の先だ。そこまで耐えてくれ、俺の太ももとふくらはぎちゃん。いや、耐えろ!着けば美人のマッサージが待っているぞと鼓舞した。そうして自分を鼓舞しながら歩いていると目的地にやっと着いた。電話では、マッサージ店はアパートの中にあり、3階にあると言っていたのを思い出した。お姉さんの言っていた通りにアパートの中に入り階段を上がった。途中清掃のおばちゃんと目があったが、お構いなしで駆け上がった。多分おばちゃんは気づいているだろう。おばちゃんは微笑んで「頑張って」と言って下に降りて行った。
その背中は何かを物語っていた。それは僕への警告のようなものに思えた。


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