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ディグ・モードvol.85「アップヌーン(UPNOON)」

アップヌーン(UPNOON)は、韓国出身のジャン・ジス(Jisoo Jang)とキム・デヒ(Dahee Kim)、ミャンマー出身のインザリ・モー(Moe Inzali)が韓国で設立したブランド。ニット、プリント、テキスタイル、革新的なシルエットに焦点を当てている3人は、クリエイターが集まって自由に実験するためのコミュニティを構築するというビジョンを持っている。


正午に起きて出勤するスタイルから命名

2022年春夏コレクション(Photography by YoungJae Shin)

ソウル近郊の京畿道、一山で育ったジスは、幼い頃からインスタレーション アートや東アジアの伝統的な絵画、陶器を愛していた。デヒは絵を描いたり動画を撮ったりしてファッションに興味を持つようになった。母親もデザイナーのモーは、ロンドンに移る前に日本でヘアメイクを5年間学んだ。

高校時代からの友人であるジスとデヒは、セントラル セント マーチンズでモーと出会い、卒業後に3人でアップヌーンを設立。ブランド名は、韓国での彼女たちのワークスタイルを表している。モーは午前9時から午後1時まで韓国の語学学校で勉強しており、彼女たちは午後2時から夜遅くまで働く。正午に起きて仕事に行くスタイルからアップヌーンと名付けられた。

個々のスキルに焦点を当てて学び合う

2022年春夏コレクション(Photography by YoungJae Shin)

3人は学生の頃から常にお互いの作品を愛し、将来に対して同じ夢を共有していた。誰もが自分のブランドを始めたいと思っていたが、ひとりで始める勇気はなかった。しかし、ふたりの友達が隣にいることでひとりは勇気づけられ、お互いのギャップを埋めることができる。それが彼女たちの働き方である。

彼女たちは、それぞれの最も強力なスキルに焦点を当てて、フィードバックやアイデア交換をおこない、いつも学びあっている。担当はジスがショーピースとテキスタイル、ダヒがプリントとデジタルワーク、モーがテキスタイルとプレタポルテだ。大学時代からお互いの作品を知っていることが、彼女たちの協働を容易にしている。

3人にとってブランド運営における最も難しい要素は、ブランドとして存続する責任だ。学生のようにスリル満点の服を作ることはできず、クライアント、生産、マーケティングについて考えなければならないからだ。彼女たちはファッションビジネスを学びながら、ブランドの運営を進めている。

デザインプロセスは実験と機能性が重要

スケッチブック(Courtesy of UPNOON)

3人のデザイン プロセスは、実験と機能性が重要だ。テキスタイルと3Dを研究し、実験することから始める彼女たちは、「アートの作成」と「日常着の作成」というふたつの世界の間に留まりたいと考えている。

最初のコレクション『The Blue House』は、パンデミックによる隔離のため自宅で卒業コレクションを作成している間に経験した、コロナ ブルーの不条理で幻想的な側面からインスピレーションを得たものだ。彼女たちは自身を含め、家に閉じこもっている人々を見て、温室の中の植物のように感じた。

そのデザイン プロセスは、さまざまな人の家を訪れ、自宅に隔離されたときの空想や希望を共有することから始まった。次に、その人の持ち物を使って、その人のストーリーに沿ってドレープの実験をおこない、シルエットと形を生み出した。そこから、アイデアを衣服、ディテール、テキスタイルに発展させて、コレクションを完成させた。

誰かのインスピレーション源になりたい

2022年春夏コレクション(Photography by YoungJae Shin)

3人はブランドの目標として、強力なファン層を築き、誰かのインスピレーション源になることを掲げている。それはコレクションごとだけでなく、可能な限り持続可能になるための取り組みを通して目指していることだ。そこには金銭や技術的な問題が生じるが、アップヌーンは迅速な解決策ではなく、長期的な実験を求めている。

例えば2022年春夏コレクションで発表したチェックのドレスは、質感を強調しながら生地の無駄を最小限に抑えてデザインされた。パターンはほぼ長方形で、裁断も可能な限り環境にやさしい方法を心がけたと彼女たちは説明している。

2022年春夏コレクション(Photography by YoungJae Shin)

2022年に入って、彼女たちの働き方は変化を見せている。自動編み機を購入したことで、デザインへのアプローチがより多様になった。そして、普通のニットでは見られない実験的な質感や表現を取り入れたコレクションである「UPNOON Lab」を設立した。

将来的には、クリエイターが自由にコラボレーションできるコレクティブかプラットフォームを立ち上げて恩返しがしたいという3人は、最終的な目標について、「世界中の人びとが集まって一緒に実験し、ストーリーを語ることです。アップヌーン自身がおこなってきたように」と『i-D』で語っている。3人の最終目標の起点には、ロンドンから韓国に戻った背景がある。

自身の創造的なユートピアを築く

ソウルにあるアトリエ(Courtesy of UPNOON)

彼女たちの卒業年度は、翌年から新しいビザ制度が始まった関係で、大学院の就労ビザを取得できる最後の年だった。それはパンデミックの始まりでもあり、財政とビザの問題からロンドンでビジネスを始めることは非常に困難だった。ロンドンを去らなければならなかったとき、彼女たちはがっかりしたが、自身の創造的なユートピアを築くという新たな目標を思いついた。

彼女たちはアップヌーンを単なるブランドではなく、クルーとして捉えている。「コラボレーションやプロジェクトを通じて、みんなが一緒だった頃のエネルギーを取り戻したいと思っています。私たちはコミュニティを信じており、世界中のアーティストやデザイナーのコラボレーションの拠点になることを望んでいます」と3人は『1 GRANARY』で語っている。

この記事は、フリーランスで翻訳や海外アパレルブランドの日本向けPRをしている𝐡𝐢𝐫𝐨𝐤𝐨が、自身のファッション業界に対する見識を広める目的で書いたものです。

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