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ディグ・モードvol.98「アメシュ(AMESH)」

アメシュ(AMESH)は、2019年にスリランカ人デザイナーのアメシュ・ウィジェセカラ(Amish Wijesekera)が設立したブランド。それはアイデンティティを受容するプラットフォームとして機能し、スリランカの色彩や職人技、コミュニティについて語っている。アメシュは2022年のLVMHプライズ セミファイナリストに選出された。


アイデンティティを受容するプラットフォーム

(Photography by Tavish Gunasena)

アメシュは幼いころ、肌の色や縮れた髪の毛など周りとは異なる自身の見た目に自信がなく、スリランカの社会規範や性別の固定観念に大きなプレッシャーを感じながら育った。その経験から、彼はその問題について話し合えるプラットフォームで仕事することに決め、自己を表現し自身と接触するためのツールであるファッションの業界でキャリアを築くことにした。

アメシュはファッション業界に「表現」をもたらすことが重要だと考えている。その理由は南アジアのデザイナーをあまり見かけないことであると説明し、彼は作品を通して常にアイデンティティと美への挑戦について語っている。たとえば、デザイナーはキャンペーンでキャスティングする際、ごく普通の人々をオンラインで公募する。その表現法は彼にとって非常に大切だ。

(Photography by Tavish Gunasena)

アメシュはロンドンに行ったことをきっかけに、人々がありのままの彼をどのように評価しているか理解し始めた。スリランカでは茶色すぎた肌の色がロンドンでは褒め言葉であり、彼はありのままを受け入れ始めたことで自分を見つけ、そこに快適さを感じられるようになった。自身を受容することは、彼のブランド アイデンティティにとって重要な部分である。

スリランカはイギリス、オランダ、ポルトガルによって植民地化された歴史があり、人々は依然として西洋中心の基準や美の理想を持っている。そのため、デザイナーは常に地元の人々を代表し、語り、あるいはプラットフォームを提供すること、そしてアイデンティティを探求することを目指している。それは、彼がファッション業界に欠けていると考えているものだ。

色はコミュニケーションの手段

(Photography by Tavish Gunasena)

デザイナーの育った環境がアイデンティティを形作ったブランドは、表現だけでなく、スリランカの色彩や職人技、コミュニティについて語っている。それらすべての要素はまとめられ、地元の工芸品や織物を媒体としてモダンな方法で伝えられている。

色、質感、デザインにとても惹かれているアメシュにとって、素材が肝心だ。その理由について、彼は主にテキスタイル デザイナーであり、それが彼のキャンバスで、そこから出発するからだと説明している。彼はビーチの近くで育ち、子どものころ鮮やかな色に囲まれてきたことが、色との関係性を特徴づけた。

「色には多くの力があり、癒しの効果から幸せにする能力まで、さまざまな形で現れます。それはコミュニケーションの手段であり、時には性別に関係する色などの制限でもありますが、なぜ誰もが色を楽しめないのかと考えました」と彼は『METAL Magazine』で語っている。そうして、色はブランドの大事な部分になった。

宝探しで発見したものが着想源

(Photography by Tavish Gunasena)

彼のインスピレーション源は、自身が発見したものにある。スリランカでは多くの衣料品が特にヨーロッパ向けに製造されており、市場に出ていない工場から出た残りの生地や端切れが単に焼かれるか捨てられている地区が存在する。基本的に、そこではあらゆるものを見つけることができ、デザイナーにとってそれは宝探しのようなものだ。

毎日そこに行って探すと、傷んだ布地や装飾品などあらゆるものを手に入れることができる。彼にとって、それはインスピレーションの旅のようなもので、集めた物を使って何ができるかという無数のアイデアを浮かばせている。

職人技はルーツへの回帰

(Courtesy of Reference Studios)

ファッションの世界では大量生産やスピードが求められ、人間味が失われているとアメシュは感じている。たとえば、手織りの作品はひとりの職人が木造の織機で作り、1メートルの生地を作るのに長い時間がかかるが、現在では機械が人間に取って代わり、市場のニーズに合わせて数分で生地を仕上げる。

その現状に対し、クラフトマンシップを次世代に残し、そこに新しい文脈を与えるにはどうしたら良いかという疑問がデザイナーの頭の中で巡り続けた。彼にとって職人技は、人間の価値を維持することを意味する。つまり、何百年も前から存在し、残念ながらスリランカでは失われつつある遺産を取り戻し、価値を与えることであり、ルーツへの回帰のようなものだ。

「彼らは長年にわたる知識、職人技、スキルを持っていますが、創造性やスキルを発揮することはありません」と彼は『VOGUE』 で語っている。パンデミックで、スリランカの多くの職人や工場が苦しんだとき、彼の解決策は職人たちと協力してユニークなニットを作ることだった。そのコレクションは、彼がInstagramでスカウトした地元のスリランカ人がモデルとなった。

LVMHプライズ セミファイナリスト選出

(Photography by Tavish Gunasena)

アメシュは、業界の未来を担う次世代のファッションデザイナーに与えられる賞、LVMHプライズの2022年版でセミファイナリストに選ばれた。彼にとって最も素晴らしかったことは、すべてがスリランカでデザインされ、作られたことを業界の人々に直接知ってもらえたことだ。

「スリランカは観光で非常によく知られていますが、繊維、職人技、製造業ではあまり知られていません。ですから、それを国際的なファッションプレスと共有できたのは素晴らしい経験でした」とデザイナーは『METAL Magazine』で語っている。

アメシュ・ウィジェセカラ(Photography via Life Online

LVMHプライズ受賞の影響は彼が予想していたよりもはるかに大きく、ビジネスの面でも良い影響を与えている。アメシュはミラノの販売代理店と手を組んだほか、興味を持って集中的にサポートしてくれるバイヤーもいると彼は説明している。

将来の展望について、デザイナーが取り組んでみたいことのひとつはインテリアデザインだ。子どもの頃、彼はファッションデザイナーではなく建築家になろうと考えていて、常にインテリアデザインに魅了されてきた。ファッションのビジョンやテキスタイルの知識をどのようにホームデザインに応用できるか見てみたいとアメシュは考えている。

この記事は、フリーランスで翻訳や海外アパレルブランドの日本向けPRをしている𝐡𝐢𝐫𝐨𝐤𝐨が、自身のファッション業界に対する見識を広める目的で書いたものです。

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