見出し画像

『桜桃忌に寄せて』

1948年6月19日
玉川上水下流にて太宰治の遺体みつかる。

『あの頃の僕へ』作/直治

あなたの作品を初めて読んだ夜
眠れなかった 涙が止まらなかった
あの夜から 僕の戦闘は始まっていたんだと思う

仕事をやめた 人間関係を変えた 遊びふけた
旅をした それらすべてを死に物狂いで書きなぐった

あなたの眼差しを真似したくて
あなたの頬杖を真似したくて
あなたの言葉を盗みたくて
少しでも 人生に絶望しているというポオズをとりたかった

でも 僕には出来なかった
やり切ることが出来なかった
あなたの眼差しも
あなたの頬杖も
あなたの言葉も
あなたの絶望も
それはすべて あなたのものだから

あなたは中空をぼんやりみつめ
あなたは退屈そうに頬杖をつき
あなたは乾いた言葉を投げかける

そして最後に こんなことを言うかもしれない
「私の真似をしなくてよかった」と

僕は毎日闘っている
何者ともしれない 得体の知れぬ者と
でも もうあなたには憧れなどない
僕とあなたは 同等だから
それは僕に あなたのような文才があるということではない
それは僕に あなたのようなカリスマ性があるということではない
それはひとつの命ということ
命の価値に 優劣はないということ

僕とあなたはいつだって 一対一なのだ

僕はまだ、生きてる


子を持つ親としての太宰
そして今は亡き父へ捧げる

※2022年6月19日stand.fmの作品です

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?