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ふらり旅

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ふらりと旅した時の一瞬を、切り取って綴っています。
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#旅行記

ふらり旅♯9(東京)

急流に飲み込まれるように人の波にさらわれて、あれよあれよと流されるうちに、自分でもわからない所まできた。掲げられるサインは複雑で、向かう場所は東か西か、はたまた北か南か。行きたい道がどこにあったのか、私にはもうわからない。 ふらり旅♯9(東京) 新幹線のアナウンスが終点を告げて、車窓から見える景色は少し前から乱立するビルで溢れかえっている。見える空はずいぶんと狭くなっていた。 到着した駅に溢れかえったコインロッカーはどれも赤いランプ、訪れる人の多さを物語っている。だれが

ふらり旅#2-2

3日間ほど滞在したゲストハウスに別れを告げて、烏丸御池の駅に足を向けた。羽織ったコートの隙間から、朝の冷えた空気が忍び込んできた。 お腹の辺りからじわりと冷たくなるのを感じて、思わず肩がぐっと上がった。 バスも電車も紅葉を見に行く観光客でごちゃごちゃに詰まって、息をするのがなんだか苦しかった。好きな人に好意を返されないときみたいな、寂しさと苦しさが満員電車にはある気がした。そんなことを考えたのも、読みかけの武者小路実篤『友情』が手元にあったからだと思う。あんなに一心に誰かに

ふらり旅 #2ー1

朝の6時、長らく鳴っていなかった私の目覚ましが耳元で爽やかな音を奏でた。 眠い目を無理やり開いて、キンと冷えた水で顔を洗う。 一気に目が冷めた。 足元からすうっと冷たい空気が流れて肩が一瞬だけ上がった。 7時の電車 スーツ姿の社会人と、眠いのを我慢しながら片手にテキストを開く大学生。 イヤホンで音楽を聞き続ける高校生に混じって、旅行バックを手にした私は通勤ラッシュ時の車内ではさぞ邪魔だっただろう。着いた駅は仕事先に急ぐサラリーマンでどこもかしこもせかせかとしていた

ふらり旅#1−3

日本地図に大きく空いている穴。 真ん中のあたりに空いている穴。 そんな言い草をしたら滋賀県の方々の怒りを買うだろうか。 ほとんど目にしたことがなかった琵琶湖について、私は池と大差がないくらいに考えていた。  大きな池なんだろうと思っていたけれど、実物の湖はもっと素晴らしいものだった。湖国とはこういう場所なのだと。向こう側に霞んだ陸地が見える様子に、私はなんとなく瀬戸内海を思い浮かべた。 この美しい湖を満喫しようと、友人と一緒に「琵琶湖テラス」に向かうことにした。しかし

ふらり旅#1−2

 電車の窓に水滴が走りはじめた。車体はゆっくり、ゆっくりと速度を落とし米原の駅に止まった。吹き抜ける風は、黒の革ジャンの間を縫って私の体を直に冷やす。冬の始めを感じさせた。    友人との待ち合わせまでは少し時間があった私は、駅に併設されていた特産品の販売兼カフェに入ることにした。コンセントとコーンポタージュが私を呼んでいたのだ。寒い日のコーンポタージュは、体を内側から幸せにしてくれる感じがする。指先からじんっと温まり、お腹のそこからゆっくりと満たしてくれる。  コーンポタ

ふらり旅 #1−1

 数日前、大学時代の友人から急に連絡がきた。 「11月の頭の連休って何してる?」  お金も時間もない我々は、1泊2日の旅を決行することにした。我々の計画は常に適当である。会う時間と泊まるところは決め、後はなんとなく行きたい場所に行くのだ。 今回の集合場所は米原駅。  乗り換えのため、大垣駅で一度下車。知らない駅に降り立つ瞬間のドキドキはいくつになっても消えないものだと改めて感じた。ホームに立って「普通米原行き」を待つ。思っていたより冷たい風に、私は思わず上着の前を閉め