見出し画像

ふらり旅#1−2

 電車の窓に水滴が走りはじめた。車体はゆっくり、ゆっくりと速度を落とし米原の駅に止まった。吹き抜ける風は、黒の革ジャンの間を縫って私の体を直に冷やす。冬の始めを感じさせた。

 
 友人との待ち合わせまでは少し時間があった私は、駅に併設されていた特産品の販売兼カフェに入ることにした。コンセントとコーンポタージュが私を呼んでいたのだ。寒い日のコーンポタージュは、体を内側から幸せにしてくれる感じがする。指先からじんっと温まり、お腹のそこからゆっくりと満たしてくれる。
 コーンポタージュでお手軽な幸せを感じていると、店内でかかっていたラジオが耳に入ってきた。どうやら米津玄師さんの『灰色と青(+菅田将暉)』が流れているようだ。「米津玄師」を持っている彼の独特の世界は昔から好きだが、その曲を聞くための時間が必要な歌だと感じている。

 歌詞のある音楽を聞いているとどうも考えごとは上手くいかないのだ。
 

 学生時代は移動中や人を待っている時間でよく音楽を聞いていた。外の世界と内の世界の境界線を断つように、いつもイヤホンを装備していた。
 しかし、今となっては外の音を聞いている時間の方が圧倒的に長い。
 人と人との会話や、アナウンスの言葉、電車が走る音に臨場感に安心するのかもしれない。外の世界と交わりながら、内の世界を広げられるようになったのだろうか。

 その場でしか聴けない音を、できる限り聴いておきたい。
 

 友人は集合時間ぴったりに鼻声で現れた。
 どうやら連日の寒さにやられたらしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?