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ウマ娘プリティーダービー新時代の扉感想

 ウマ娘の映画が公開されてから今日で3回目の視聴を終えて、気づいたこと、感じたことを覚書してみたいと思います。
 単純なストーリーの感想や作画の良さ、声優の凄さに関してはもはや言うまでもなく最の高を超越しているし、他の人がいくらでも語っていると思うので、ここでは『演出』という観点で凄い良いと思った部分を書き連ねていこうと思います。
 視聴を繰り返す毎に発見があるので、今後も更新されるかもしれません。


虹が生まれるのは

 本作ではあらゆる場面で虹に光る演出がある。
 印象的なのは「日本ダービー」ラストでダッシュ時の衝撃波が虹色に輝くシーンや、ポッケがタキオンに宣戦布告するシーンでも瞳が虹色に光る。
 おそらくこれは、彼女達の『希望』を表しているのだと思う。『感情の高ぶり』や『覚醒』とも読み取れるが、今のところ『希望』が最もしっくりくる。
 以下に覚えている限りで、虹の表現が使われているシーンを順番に挙げてみる。

①ポッケが最初にフジキセキを見たとき
 映画冒頭の皐月賞が終わり、みんなが帰った競馬場でポッケがクリスタルを放り投げて駆け出すシーンにて、クリスタルが細く虹色に輝く。おそらくここでポッケの「最強になる」という希望が生まれた。

②タキオンの走り
 タキオンに宿る虹と、ポッケやダンツに宿る虹は少し表現が異なるように思う。というのも、タキオンはあくまで「ウマ娘の能力の極限」に対する希望であり、ポッケやダンツの「最強になりたい」や「私だって勝ちたい」という希望とはベクトルが異なるからだと考えられる。

③ポッケとフジキセキの並走
 走り始めた時点では、クリスタルの輝きがほぼ失われているが、並走を経て「目を覚ます」走りをしたことで、最後にクリスタルは再び虹の輝きを取り戻している。

④ジャパンカップ
 ポッケが終盤、観客席に立つタキオンを一瞥し、「先に行くぜ」と宣言した瞬間、瞳に虹の炎が宿る。「先に行く」ということは「お前も来るだろ?」という意味とも捉えられる。フジキセキとの並走から、自身の走りが他のウマ娘の「目を覚ます」こともできること知り、このジャパンカップでの走りを見せつけることで、タキオンに復帰させてやろうという、まさに「希望」の現れが虹によって表現されているように感じた。

 また逆に、「皐月賞」を終えた後からフジキセキとの並走までの間、唯一「日本ダービー」でのスパートを除き、おそらくほぼすべてのシーンにおいて、極端なまでに虹の演出は使われていなかったように思う。タキオンに勝ち逃げされ、自分が一生最強にはなれないという「絶望」を、虹演出を使わないことで表現しているように思う。

 ついでに、ガチャでゲートが虹色に輝くと★3レアが来るという設定も関係してるかもしれない。(適当)

花吹雪と雲の色

 「日本ダービー」と「ジャパンカップ」では、明らかに優勝時の演出に差があり、前者は曇りということを踏まえたとしても、明らかに全体的な色の使い方が暗く、とても優勝を称えるような雰囲気ではない。一方で、後者では晴れて雲に光が当たり、虹色に輝いている。
 本編を知っていれば、前者の「日本ダービー」優勝では、まだポッケがタキオンに勝てていないことへの悔しさで心の底から喜べない心情であることが分かっているはずであり、そのことが花吹雪と雲の色の明るさでも表現されている。
 ダービーウマ娘の夢を叶えたことで、周りが大喜びしている雰囲気に相反して、BGMや色彩が重くどんよりとしているのは実にシュールな光景で、初見でも少し違和感を感じていたが、改めて見返してみるとこれが何を表していたのかが良くわかる。
 付け加えるなら、ポッケの雄叫びも「日本ダービー」の時と「ジャパンカップ」とでは、明らかに喜びの感情が違って聞こえてくる。ここは声優さんが本当にすごい。

クリスタルの正体

 CMやポスターを見ていた時から、ポッケが持っているあの「クリスタル」は一体何なんだ?というお話。
 いざ映画が始まってみれば、タキオンも同様の「クリスタル」を持っていて、タキカフェの部屋の窓に飾っている。ということは、ポッケ固有のアクセサリーではないし、ゲーム立ち絵やグッズ絵を見ても、特別クリスタルが目立つことはない(というかそもそも持っていない?)。

 結論から言うと、おそらくあの「クリスタル」はウマ娘の「心」を表しているのだと考えられる。ここまで述べてきた通り、「虹」=「希望」であり、その虹の輝きを最も放っていたのがあの「クリスタル」であり、「心」である。
 根拠としては2つある。1つは、ポッケが夏合宿でクリスタルを落とし、欠けさせてしまったことが、心に傷がついている表現ととれること。そしてもう1つは、タキオンが窓に飾っているクリスタルが、「皐月賞」を終えた時点で完全に輝きが消失し、その後にポッケの試合を見る度に少しずつ輝きを取り戻し、最後にポッケから並走をお願いされた時点で、部屋全体に広がるほどに虹の輝きを取り戻している。おそらく最後の輝きは、かつての「ウマ娘の能力の極限」に対する希望ではなく、本能のままに「走りたい」という希望に変わっていたのではないかと思う。

何気ないカットの意味

 本作では、話の流れでまったく関係無い、無くても問題ないようなカットが一瞬挟まることがあり、これが心情描写になっている。
 特にわかりやすいのが、夏合宿でポッケがフジキセキとお祭りをまわるシーンにおいて、正確な会話は覚えていないが、フジキセキとポッケが会話する間、ポッケが動揺すると提灯の灯りが明滅し、図星を突かれるとボール掬いのポイが破れてボールが下に落ちるカットが挟まる。他にも、なぜかフジキセキとポッケの間を割くように人が通ったり、タキオンの休止宣言を受けてポッケがタキオンの胸倉を掴んだ際に、視点がコーヒーに移ってこぼれるコーヒーを映し出すシーンも、おそらく何かしらの心情描写になっているものと推測できる。
 ついでに、そもそもタキオンが最初に(おそらく)コーヒーを飲むのに使っていたのは試験管だったのに、あのシーンではちゃんとマグカップを使っていた点や、やたらと角砂糖をどばどば入れていたところも、タキオンなりの動揺の現れだったとも読み取れるかもしれない。

フジキセキの「君なら…」

 フジキセキは、ポッケに試合前に声を掛ける時や、夏合宿の祭りでポッケの悩みに答えてあげている時、セリフの頭に「君なら…」をやたらと付ける。初見ではポッケへの信頼を込めて言っているように思っていたが、改めて考えてみると、これは「私では出来なかったけど、君なら」という意味が込められていると気付いた。
 ポッケとの並走後、復帰を決意したことで、この言葉を使う必要はなくなったのだと思う。

OPの4人が駆け出すシーン

 OPラスト、ポッケが光の奥に駆け出すシーンで、後ろに3色(ピンク・青・黄色)に光る3人のウマ娘が後を追うシーンがある。最初はもしや三女神か!?と思ったが、どうやらダンツとタキオンとフジキセキ(あるいはカフェ?)のようだ。
 そして映画のラスト、タキオンが復帰してポッケが地下バ道からコースに出る際、OPと同様の構図でダンツとタキオンとカフェがその後に続く。
 この2つの構図が、もしかするとではあるが、ゲームにおける育成時の「因子継承」を意識した可能性があるように感じた。
 というのも、今回の映画の1つの大きなテーマとして、「ウマ娘同士が与える影響」というのがあるように思う。例えば、フジキセキの走りを見て最強を目指したポッケ、ポッケの後を追って私も勝ちたいと努力したダンツ、タキオンの走りがあの子に追いつきそうになったのを見て本気になったカフェ、ポッケの走りで自身の本能的な走りたい気持ちに気づいたフジキセキとタキオン、互いの走りが互いに影響し合って心情に変化が生じている。
 加えて、タキオンが休止宣言をしてポッケが無茶なトレーニングをしていた際、タナベトレーナーがポッケに、タキオンの走りを見てお前はどう思ったか、ウマ娘の心(?)は走りに現れる、それは同じウマ娘にしか読み取れない、といったような内容を伝えていた。そしてタキオンも、序盤でやたらとウマ娘同士が互いに与える影響について熱心に研究していた。このことからも、「ウマ娘同士が与える影響」というのが大事なテーマであるのは明確である。
 そのことを踏まえた上で、あの走り出す構図を考えた時、ウマ娘同士の「影響」を「継承」と捉えるなら、あの構図はポッケが周りの仲間たちに思いを継承したことを表しているとも考えられる。因子継承イベントのシーンでは、影響を与える側が先を走り、受ける側が後を追う。思い出してみれば、ポッケはダンツ・フジキセキ・タキオンに絶大な影響を与えていた。OPやラストの4人の構図は、この思いの継承を表していたと考えると、面白いと思う。
 とはいえ、ポッケはカフェに対してあまり影響は与えていないので、少し無理がある考えとも言える。この点をあえてごり押しで補足するなら、映画冒頭から一切笑顔を見せないカフェが、ジャパンカップでポッケの応援に来た際、(おそらくここで初めて?)笑顔を見せていた。このことから、カフェも少なからずポッケの影響を受けていたと言えなくもない。

始まりのBGM

 これは正直もう一度映画を見ないと確証は無いが、ポッケが最初にフジキセキの走りを見たときに流れていたBGMと、ポッケがジャパンカップでタキオンを一瞥した時に流れるBGM、おそらく同じではないか?
 BGMをあえて同じにすることで、かつて影響を受けた側だったポッケが、逆に影響を与える側になったという、ポッケの「成長」を表しているように感じた。
 これを確認するためにも、もう一度映画を見に行かなければならない。

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