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最後の体育。

ピイィーーー!

けたたましい音が鳴り響く

この音を形容するのに“ピ”か“ビ”どちらが相応しいか、そんなことを考えながら私はボールを追い始めた


飛び交うキラキラした名前ときゃらきゃらした笑い声の合間を縫ってボールを追いかける

ガリッ

ボールを取り合った相手の爪が私の手の甲を引っ掻いた
赤くなって血が滲む

あ、謝らないんだ…

別に謝ってほしかったわけではないんだけど




運動が苦手な私にとって、体育の時間は謝罪の時間だった

ごめん、パスが下手で

ごめん、シュート決められなくて

ごめん、私がペアで

何かにつけて謝った
謝れば責められなかったからただただ謝った

気付けば勝てた時でさえ謝りそうになっている自分がいた


あの子は、そんな惨めな気持ちを味わったことがないのだろうか
だと勝手に仮定して知らない彼女のことを少し羨ましく思った


「交代!」

声がかかってコートを出る

荒い息をして、一緒にコートを出た友達とお疲れ様を言い合う

「さっきのシュート、ナイス!」
そう言われて頬が緩む

こうして私を見てくれている人もいる
彼女、私より遥かに活躍していたのにな
「○○ちゃんこそ」と素直にその気持ちを告げると謙遜して汗を拭う彼女は美しかった


こうしてコートを走り回ることももうないんだな
そう思うと少し寂しくなった

前述の通り、惨めな気持ちを抱くことも多かった

そんな私だからこそ、みんなが大人になるにつれて少しずつ誰かのミスを責めることが減っていったことを強く体感していた

小学校より中学校、中学校より高校

次第に、誰かのミスを責めずカバーして、できたことを褒めて喜んで、普段関わらない子とわいわい楽しく運動する時間が嫌いではなかった

寒さで縮こまっていた体はいつの間にかぽかぽかしていた

私はこれからもたくさん惨めな気持ちを抱くだろう

きっとあの子みたいにはなれない
たくさん謝ってしまう性格のまま、変わらないのかもしれない
それは生きづらくて絶望したくなる

それでもそんな謝ることしか知らない不器用な自分を受け入れて生きていけたなら素敵なのかもしれない









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