トヨタ 新型BEV bZ4Xをプレスリリースから読み解く

2021年10月29日に詳細が発表されたトヨタの新型BEV bZ4Xについて,公表された情報を元に評価,考察をしてみたいと思います。

【外装編】
まず,外装からです。
全長×全幅×全高,それぞれ4690×1860×1650と一般的なDセグメント級シティSUVのサイズです。パッと見た印象と実際のディメンションが合致しており,見た目のダルだとか妙な華奢感はありません。ハリアーの各部デザインをブラッシュアップした印象です。

前から後ろまで余計なプレスラインはありません。フロントボンネットからフロントドアのベルトラインを通りリアドア央に抜けるキャラクターライン,フロントドア後端から入ってリアフェンダーに向かって伸びるキャラクターライン,それぞれフロント上部の塊感とリア腰下の踏ん張り感を強調しています。また,リアドア前端上部からリアコンビランプに向かって湾曲して伸びるラインは,Cピラーの倒れ込みとリアフェンダーの盛り上がりを演出しており,これによりリア腰下の踏ん張り感と上屋の軽さが表現されています。さらにすごいのは,各キャラクターラインの間にラインレスの曲面を設けることで,車両全体のプロポーションバランスをとっている点です。今までトヨタが一番不得意としていた,曲面を用いたデザイン表現がbZ4Xではなされています。

フロントマスクは,空力を意識した形状をしています。
空気取り入れ口の開口面積を最小化,バンパー下部に一元化してます。
また,バンパーサイドに独立した面を建て,ホイールハウス側面部に流れる風の整流をしています。

マスク中央が上下方向に窪んでいるのは,ボンネットフード上面前端に剥離流をつくらないためでしょう。形状的に複雑な車両上面よりも,側面部に風を導く方が空力的には有利です。

タイヤとフェンダーアーチの隙間は,同クラスのトヨタ製SUVである,ハリアーやRAV4よりも詰まっている印象です。充電速度に課題のある現段階では,BATの電力消費に敏感にならざるを得ず,エネルギーロス低減に効果的な空力処理には相当力を入れているのです。

リアの空力処理はフロント以上です。
テールゲードに繋がるボディサイド面は軒並みエッジがついています。サイドを流れてきた風が後部に巻き込むのを防ぐためです。
リアルーフスポイラーはちょっと面白い形状をしています。
中央はリアウィンドウとなだらかに繋がっているのに対し,両端部は従来的なスポイラー形状をしています。

実車を見ていないので確かなことは言えませんが,フロアの空力処理も進んでいるものと思われます。プレスリリース用のはめ込み写真を見る限りでは,リアディフューザーは飾りではないようです。GR86でさえダミーでしたから,このbZ4XはスポーツカーであるGR86以上の空力処理が施されているということになります。空力と聞くとf1カーやスポーツカーを思い浮かべる人も多いと思いますが,意外と市販のファミリーカーでも重要な要素なのです。

【内装編】
続いて内装の評価です。
一部グレードでは,ステアリング上部を無くしたF1カーのような小径ステアリングが採用されています。操舵機構をバイワイヤとすることで,操舵時の持ち替えが不要なハイゲインステアとしているようです。
ステアリング角度はセダン並に立っています。SUVでは,所謂クロカン風の平向きなステアリング角度になっている車種も存在しますが,衝突安全性に余裕のあるDセグメントクラス車種で,オフロード走行を想定していないラックギア操舵のシティSUVでは,セダンやワゴン等と同じくドライバーと正対する角度の操作性を優先したステアリングにするべきだと考えます。

メーターは,最近のプジョーのようなHUD LIKEメーターを採用しています。視線移動やピント調節が最小限になるため,運転時の疲労低減に効果があります。通常のガラス投影式HUDはプロジェクター部にホコリが溜まるデメリットがありますが,HUD LIKEメーターであればこの心配はありません。
(余談ですが,HUD LIKEメーターを採用する理由の1つに,室内長の増加というものが存在します。一般的に,メーターパネルからリアシートまでの長さを室内長と呼ぶため,メーター位置をなるだけフロント寄りにすることで室内長を稼ぎ,少しでもカタログスペックを良く見せようと躍起になっているメーカーも存在します。)

ナビディスプレイはタッチパネル式のようです。最近は外車勢含め,レクサス等の高級車ブランドもタッチパネル式に回帰しています。3,4年前までのコントローラー式は直感的な操作という点で劣っていましたし,とりわけ右ハンドル仕様車では利き手である右手が使えず,仕方無しに左手で操作せざるを得ないという劣悪なものでした。

空調操作は物理ボタン式です。プレスリリースの写真からわかりますが,ナビディスプレイの下に操作スイッチが幾つか並んでいます。空調は運転中も触るものなので,手探り状態でも操作可能な物理ボタン式なのは嬉しいですね。これがユーザーの視点に立ったデザインだと思います。

空調ユニットの操作性は良いのですが,センターダクトは不思議な位置にあります。なんとナビディスプレイ及び空調操作器の下,センターコンソールとインパネの間の丁度直角になっている部分に位置しているのです。
なぜこんな位置にベンチレーションダクトを配置したのか全く疑問です。
これでは風量を相当強くしない限り,ダクトを出てきた風は身体に当たらないでしょう。特に夏場の暑い時期に冷たい風を浴びたい時などは非常に不利です。bZ4Xの内装を担当したデザイナーは,冷気は下に溜まるということも知らないのでしょうか。

ドアアームレストは後ろから前にかけてなだらかに上がり傾斜がついています。肘に行くほど太く,手首にかけて細くなる人間の腕の形状にマッチしています。トヨタに限らず,逆傾斜がついている意味不明なデザインの車両も存在するため,意外と重要な評価ポイントなのです。

シートはトヨタ製でしょう。形状的に,C-HRやカローラスポーツ,ハリアーやRAV4に採用されているスポーティーシートです。

【メカニズム編】
プレスリリースでは,ホワイトボディやシャシーのスケルトン画像も出されています。ここからわかる範囲で評価します。

まず,ボディはフロント,リアともに完全新設計,シャシーはリアの一部はGA-Kの流用であると推測できます。
リアのショックアブソーバーの取付角度及びアルミ鋳造性マウントブラケットはGA-Kと同一です。ショックアブソーバーの取付角度はプラットフォーム単位で固定されますから,リアはボディも含めてGA-Kを一部使っていることが分かります。しかしそれにしてもリアシート直下,BATとリアセクション間のパネルが平面でリブ等が一つも建っていないのは少し驚きです。剛性面で問題はないのでしょうか。フロア下にBATを搭載するBEVではフロアとリアセクションの剛性バランスのズレが車両の挙動に大きく影響するため,ボディ前後の荷重伝達の線形性を考慮した設計が求められます。

フロント周りは完全新設計と思われます。
パワーソースが簡素になった分,従来ではエンジンと変速機で埋められていたスペースを衝突対応に充てることができるようになりました。
メインサイドメンバー前端は,直角に渡したクロスメンバーで強固に繋がれています。これに従来的なアルミ押出材のバンパーリーンフォースも加わります。
前者はパワーソース保護とオフセット衝突時の荷重分散,後者は放熱器系の保護とクラッシャブルゾーンの確保です。強度の低いアルミ製リーンフォースで荷重を減らしつつ,強度の高い鉄系素材製クロスメンバーでキャビンとパワーソースを保護しています。
バンパービームの下には黒く塗装されたパーツがありますが,これはプリウス等でも見られた第2クロスメンバーでしょう。フロントサスペンションメンバーは,この第2クロスメンバーとステイを介して接続されることで衝撃吸収体の一部となります。

サスペンションメンバーは通常の鉄系素材で,プレスパネル品を溶接したモナカ構造です。しかし,従来的な口の字構造でクロスメンバー等は見当たりません。発進時の駆動トルクが大きいBEVは,強力なトルク反力に打ち勝つだけの剛性を持ったサスペンションメンバーが必要です。
因みに,Audi e-tron Sportbackでは,立体形状の強固なアルミダイキャスト製サスペンションメンバーが採用されています。
モナカ構造でリブもなく,リーンフォースも入れられていない部分に疑問と不安を覚えます。

フロントサスペンションは,見た感じあまりキャスター角が付けられていないようです。フロントセクションは新設計であると推測するのはこれが原因です。GA系プラットフォームでは,フロントのサスペンションハウジングはバルクヘッド直付け,又は小サイズのリーンフォースで接続できる範囲の大キャスター角仕様です。特にプリウス,カローラ系のGA-Cではフル転舵時にタイヤが大きく傾くほどキャスター角が大きく設定されています。一方,GA-Kプラットフォームを使ったカムリやハリアーでは,サスペンションハウジングとバルクヘッドの位置はGA-C程ではなく,フル転舵時のキャンバー変化も抑え気味です。アメリカ市場中心のカムリをベースにしているため,ステアリング切り始めの反力,直進時のしっかり感よりも片手運転前提のラフ操作でも容易に修正舵が当てられるセッティングになっているのです。
このbZ4Xはこのカムリ,ハリアーのそれよりも小さいと思います。
意匠性要求が高まり,低扁平タイヤが一般化したことでタイヤのたわみ量が減った現在のタイヤでは,サスペンションの剛性や摩擦,タイヤの偏摩耗を恐れた小キャスター角セッティングでは直進安定性を確保できません。
特に,電気自動車専用の低発熱仕様タイヤは,サイドウォールの剛性を高めることでゴムのヒステリシスロスを低減していますから,必然的にタイヤがたわみづらく,結果として直進安定性はキャスタートレイルが支配的になります。
SUVということもあり,タイヤのトレッドが広く,また扁平率も高めに取ってある分ネガが出にくいことはあるかもしれませんが,今後セダンやワゴン,コンパクト等にも転用されることを考えると,現在のアライメントでは不足と言わざるを得ないと思います。

インバータは,モータトランスアクスル上部に別体式のフレームを介してマウントされています。これは先代型のTOYOTA MIRAIと同様です。

ミッドセクションは,フロア下にBATを積んでいる重要な区間です。
「タイカンを体感しよう!!」などという,気温が20℃を切る日があるこの時期には少し厳しいボケをカマしているポルシェ・ジャパンの話は置いておくとして…ポルシェ タイカンでは,フロア下に搭載するBATを構造体の一部とすることでボディ剛性の向上や側面衝突対応を行っています。
よくみると,サイドシル下部にアルミ製と思われるパーツが顔をのぞかせています。おそらくバンパーリーンフォースと同様のアルミ押出材,BATマウント用のフレームだと考えられます。また,中央部から端に掛けて斜めに角が落とされる徐変形状となっています。

フロア上面はセンタートンネルのないフラットフロアデザインです。前述の通り,BATをフロア下に搭載するおかげで剛性が高まり,結果として足元スペースを圧迫するセンタートンネルを廃止できました。ラダフレームと同じ原理です。

フロア前側,運転席と助手席ともにトーボードに黒く塗装されたパーツが配されています。これは前面衝突対策です。
メインサイドメンバーに伝達された荷重が集中する箇所であり,キャビンの変形に大きく影響する箇所であるため,リーンフォースを当ててまで補強しているのです,今後さらに厳しくなると予想される衝突安全性基準を見越しての設計です。

【総括】
HEVの老舗でありBEVに消極的なトヨタがイチから創ったBEV bZ4X。
プレスリリース段階で実写画像は無し。あくまでプロトタイプという形での詳細公表ですが,意外に収穫がありました。
空力デザイン,意匠性,使い勝手から安全性や造り込みの善し悪し等,簡単ではありますが色々と見えてきたものがあると感じました。
もちろんプロトタイプということで,発売時にはこれ以上に磨き込まれ完成された姿となって世に出ると思われますが,現段階での私なりの評価をまとめてみました。

前回の記事更新から8ヶ月と16日が経ち,久しぶりの更新です。
しばらく書きたいネタがなかったため更新が滞っていましたが,久しぶりに美味しそうな(?)ネタを見つけたため書いてみました。


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