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短編小説

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短いお話をまとめています。 小説だけでなく、詩など様々なジャンルで書いてます。
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#短編小説

【短編小説】「あと、未来をひとつください」

1月の外気は夜勤明けの身体に痛いほど沁みる。 「今が寒さのピークですよ」と言わんばかりの年末の雰囲気が過ぎ去った年明けの街を歩いていると、なんだかんだ1、2月が一番寒いんだよなということを思い出させられる。 陽の光が昇りきった朝の空気の中、赤くなっているであろう鼻をマフラーにうずめて帰りの電車を待っていた。 漏れ出る白い息を何気なしに目で追っていると、向かいのホームに振袖や袴、スーツを着た若者が多いことに気が付く。 そうか、今日は成人の日だった。 仕事が土日祝日も関係ないシ

【短編小説】 anemone

深夜を回ってすぐ、インターホンが鳴った。 この時間の来訪者なんて思いつくのは一人しかいない。 「寝た振りでもして出るのやめようか」とか、「でも電気ついてるのバレてるし出るしかないか」とかそんなことを3秒くらい考えた後、ものすごく重い腰を上げてため息混じりに玄関に向かった。 がちゃり。と鍵を開ければやっぱりそこにいたのは想像通りの人物で。 「いやあ、ごめんごめん。先に連絡しようとは思ってたんだよ、本当に。」 「まだ何も言ってないですけど。」 「だってそういう顔してるじゃん」

【短編小説】 冬、邂逅

冬が電車に乗って行った。 ぼくは「ああ、行ってしまったな」と思ったので、駅のホームにジャケットを脱ぎ捨てた。 ぼくの乗る予定の電車がホームに入ってくる。 冬を連れ去った電車が走っていった方向から。 降りてくる人の群れに逆らって、ぼくは電車に乗り込んだ。 座った席から、ぼくのジャケットがホームの駅に座っているのが見えた。 「じゃあね。」とそいつが言うので、ぼくも手を振った。 扉が閉まり、ゆっくりと電車が動き出す。 がたんがたん。 ぼくはこれからこの電車がどこへ行くのか確認し