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短編

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2018年9月の記事一覧

魚の子

「子の一人でもできていればな」と言った王の言葉はもっともで、そのため姫は真っ当に傷つくこととなった。

姫や王をはじめ、竜宮城に住む者の中には人間と同じ姿形をした者もあったが、生まれたときには魚の姿、成長するにつれ手足が生え、目に意思が宿り尻尾は引っ込む。生物学的に言えば魚の方に近く、人間の浦島と子を成すことが無かったのはそのせいだったのかもしれない。

「それにしても、あんな男。運が悪かったので

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iについて

一般的な単行本よりはひと回り小さいその本を眺める。薄い水色の表紙は撫でると硬く、ひんやりとしている。自費出版なので装丁にもこだわることができるのだろう。タイトルが金色の文字で入っている。著者名は英小文字の"i"一文字のみ。本名が"愛"なのだ。
「"i"ってやっぱり虚しいもの?」
初対面で僕が理系だと知ったiは尋ねた。虚数iと一般名詞の愛と、そして自分の名前をかけたジョークだったのだろう。
「たとえ

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