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かんころ餅は唯一無二である

 かんころ餅って知っていますか?
 サツマイモを薄切りにして、蒸すか湯がくかして天日で干したものを「カンコロ」というのだけれど、まあ干し芋みたいなものですね(干し芋は蒸して干すのだっけ)。そのカンコロをすりつぶしたものと蒸したもち米、他には砂糖を加えて混ぜ合わせる。そしてナマコ型に成型したものがかんころ餅である。

 カンコロは保存食ですね。外海地方や五島列島などは、土地がやせていて米が作れず、そのためそういった土地でも育てられるという理由で、小麦やサツマイモといった農作物を作っていた。サツマイモを米に混ぜて炊いたり、カンコロにして保存食として食べつないでいたのだろう。
 いま、「干し芋」というとわりと女性に人気のヘルシー食といった感じで、品種や製法(焼き干し芋とか)にこだわり、さらにパッケージにも凝った商品をけっこう見かけるのだけれど、この「カンコロ」はそういうのに比べるともっとしっかりと風土食といった感がある。洒落た干し芋には、焼き芋のようなねっとり感だったり、しっとりとした口当たりのいいものが多いけれど、こちらのカンコロはかさかさしてるし、口に入れてもしばらく噛みきれないほどかちかちだし、いかにも保存食である。スルメみたいにじわじわ味わうとわりとおいしい。
 五島物産展みたいなので、この洒落てない水分が少ないほうのカンコロが、ビニール袋にがさっと入れられたものが売られていたりする。一度それを買い求めるときに売り子のおばちゃんが教えてくれたのだけれど、五島のほうではこのカンコロを素揚げして食べたりもするらしい。ちょっと興味が湧く食べ方だ(めんどうだからやってはいない)。

 それで、今日はかんころ餅のほうの話なんだけれど、まずこのかんころ餅というのは今ではすっかり五島の名産品という感じであるが、もとはやはり外海の生まれらしい。外海から五島に移住する際に、あちらに持ち込まれたということなんだろう。まあ、現在製造されている数でいえば圧倒的に五島のものが多いのだろうから、それで五島銘菓みたいな扱いである。

 そうはいっても、かんころ餅は外海でもほそぼそと作られている。
 先日の訪問時、時間がないながらも新しくできたという店にTKさんと立ち寄った。ちょっとしたカフェというか、かんころ餅の工房でコーヒーも出すといった小さな店である。ずっとこの地域でかんころ餅を作ってきた方が辞めるというので、近所の人が機械や道具一式を譲ってもらって始めた店らしい。地元の方なのでTKさんは顔見知りのようだった。
 ほんとうはいっしょにコーヒーくらいは飲むつもりが、他のお客さんがいて時間がかかりそうだったため店内の利用は諦めた。そのかわりというか、TKさんは私に甘いから、ここのかんころ餅を買って持たせてくれたのだった。

整列するかんころ餅

 かんころ餅は4種類あった。サツマイモの品種を変えて、それから外海特産の「ゆうこう」という柑橘を合わせたかんころ餅で、このゆうこう入りのはとくに珍しいといえる。他に珍しいものでいうと、小値賀の生姜入りのがある。

 かんころ餅の食べ方は、1cm前後に切り分けて、トースターやフライパンで焼くというのが一般的だ。香ばしくて、ほんのり甘くて、おいしい。

 ところで、かんころ餅の味わいって、そういえば他にはないもののような気がしてきた。
 餅というけれども伸びたりしないし、かといって団子のようにみちっと詰まった食べ応えでもない。味わいを伝えられるかわからないけれど書いてみたい。

 一般的なかんころ餅は、持ち歩きや賞味期限のこともあって密封されていて、ビニールから出したそれはすべすべしている。これをカマボコくらいの厚さで切って、トースターに並べる。ストーブでもフライパンでもいい。表面に焼き色がつくくらいに両面を焼く。消しゴムくらいの硬さだったかんころ餅は、箸などで持ち上げるのに気を使うほどに、ふにふにと柔らかくなっている。
 こんがりと焼き色のついたかんころ餅の外側はかさっとしていて、それを噛むと中はほこほこと滑らかで、焼き芋のようだけれど、味わいも食感も焼き芋のそれとは違っている。
 外側の香ばしさと、中身のふっくらと温かい味わいはすごく地味だけれどほんのりした甘さを持っていて、口のなかでその両方が混ざりあってとろりとする。嚙みしめるごとにほどけていって、ざらりとした舌ざわりを残しながら、喉をとおりぬけていく。飲み込むときにお茶やコーヒーをすすってもいい。

 できたてのかんころ餅というのもある。
 作ってすぐのかんころ餅は、焼かなくてもふにゃとやわくて、そのまま切って口に運べばよもぎ餅のような食感である。あんこ入りのものなんかもあり、それだとさらにあん餅と似ているから、慣れ親しんだ味といえるかもしれない。
 でもかんころ餅といったら私は焼いて食べるのが好きだ。

おいしいにおいがしてきた

 サツマイモのおかげで、ぽそっとした独特の食感をもつかんころ餅はとてもおいしい。芋といっても、口の中の水分を持っていかれてしまうようなこともない。いろいろ思い浮かべてみたんだけれど、似たような食べものが他に浮かばないのだ。

 ところで、どうでもいいけれど、「〇〇みたいな何々」といったうたい文句というかキャッチフレーズを見るたびに、すごく変な気もちになる。えっと、例えば「チーズケーキみたいなプリン」(逆でもいい)とか。それってもうチーズケーキを食べればいいのではなかろうか、と、そうおもうのだ。どっちが食べたいんだかわからない感じがふしぎでたまらない。あれはどういう意図で、人々はどういう魅力を感じているのだろうか。

 閑話休題。
 いただいた4種類のかんころ餅をそれぞれ食べてみた。「安納芋」「紅はるか」「紅あずま」「ゆうこう入り」という品揃えである。ゆうこう入りのベースが何か、確認しそびれてしまった。
 大きな差はないとはいえ、例えば安納芋のかんころ餅などは食べたことがなかったし、ゆうこう入りのも初めてだった。安納芋やシルクスイートといった品種のサツマイモは、焼き芋なんかにすると格別においしいけれど、私が4種類のかんころ餅を食べてみておいしい(好き)とおもったのは、紅あずまのかんころ餅だった。それからゆうこう入りのも柑橘の爽やかなおいしさがあって、気に入った。

 この店は週の半分くらいが開店日としているらしい。店内に並んだコンテナにはたくさんのかんころ餅が入っていたので、写真を撮らせてもらいつつ、売れ行きを訊いてみた。けっこうな数があるなあとおもったから気になったんだけれど、開店時には売り切ってしまう日が多いと言っていた。真空パックのものもあったから、売り切れないときはこういうふうにして日持ちのきくお土産にもできるからいいのかもしれない。
 また提供しているコーヒーは、もう少し先の雪浦ゆきのうらの焙煎所のものらしい。いつかコーヒーも飲んでみたい。

安納芋のかんころ餅は黄色味がつよい

 他の何にも似ていないかんころ餅っていいよなあとおもった。そんな人になりたいとおもった。

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