物理法則弁当
書こうとおもっていたテーマが、何かあったようにおもうんだけれど、忘れちゃったみたいなので、久しぶりに食べた貝のことでも書いておこうとおもいます。
先日お届けものをしに、外海に行ったらタカナシさん(仮名)が珍しいものをくれました。
子ども時代に、父母が仲良くしていたよその家族と連れ立って海に出かけることがありました。うちは商売をしていたし、家族で出かけることってほとんどなかったけれど、年に一度店を閉めて夏の海に行くというのを何度かやりました。
場所も決まっていて、外海の岩のごつごつした海岸でした。そんな場所だったからか、シーズンでも他に遊んでいる人は少なかったです。
うちのはふたりともやらないけれど、父母の友人家族のなかには釣りをする人もいたり、パラソルの下で寝ころぶ人がいたり、海岸のとこで泳ぐというかちょっと水に入って遊んだり、貝をとる人がいたり、それぞれ好きに過ごす感じでした。
このときに獲れるのが『ミナ』でした。岩にいっぱいくっついていて、小さいから子どもでもすぐ獲れます。袋いっぱいに詰めて帰ると、母が砂抜きして茹でてくれていました。
何年か前に、平戸だったかの市場で久しぶりに見た『ミナ』についた値段を見て仰天しました。いくらだったかすっかり憶えてはいないけれど、「こんなにするの!(タダ同然とおもっていた)」と衝撃を受けるほどの値段でした。よく知っている人によると、最近はめっきり数が減って獲れなくなったんだそうです。そうかあ。
お金を払ってまで食べたいものでもないので(失礼)、もちろんそのときは購入せずに帰りました。
その『ミナ』をもらったんですね。やさしいタカナシさんはもう砂抜きして湯がいてくれていました。
家に持ち帰って開けてみると、立派な黒ミナがぎっしり。あのころ岩場で獲っていた『ミナ』はたぶんもう少し小さかったとおもいます。それでも貝の直径はよく言って3cmくらいでしょうか。楊枝を使ってちまちまと取り出し、口に運ぶと懐かしい味がしました。(ごちそうさまでした)
ついでにもうひとつ、『ミナ』まわりのことで思い出したのは、母の弁当です。母の弁当話にはいくつか可笑しいのがあったような、これはそのうちのひとつ。
ある日学校に行ってアルミの四角い弁当箱を開けてみると、『ミナ』がいっぱいに詰まっていたことがあったそうです。ご飯も何もなく、ただひたすらこの小さな貝がぎっしりの弁当、母は驚きと恥ずかしさと混乱のあまり、即座に蓋を閉めて午後じゅう空腹で過ごしたそうです。
その当時(昭和40年ごろでしょうか)の学生の弁当事情はよく知らないですが、『ミナ』だけの弁当って・・・。うちの祖母はいったいどういう感覚の持ち主なのか、とても不思議におもいます(ジュエリーの祖母です)。
ずっと『ミナ』って呼んでいたからそう書いたけれど、地方の呼び名かもしれないとおもって調べてみたら馬蹄螺という立派な名前の貝でした。
『ミナ』のエピソードでした。
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今日の「納豆」:そんな母ですが、姉(私の)に納豆巻きの詰まった弁当を持たせて彼女の機嫌を損ねたことがあります。
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