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AM02:09

ただ自由になりたい一心だった。

ドアは強風で重くなり、外から聞こえる       救急車のサイレンを僕は拒んでいる。
君と同じ経験をしたいだけなのに。         息が荒い。一歩が踏み出せない。
自分の意思のはずなのに。

脳内を駆け回る天使と悪魔に邪魔されながらも外に出た。                        一歩一歩が宙に浮くように軽すぎる。

夢心地だった。
誰もいない大通り。独りでに変わる信号機。
本日2度目の流れ星。

僕はオレンジ色の線を余韻を残しながらゆっくりと辿っていく。


破裂しそうな毛細血管。
体中に張り巡らされた神経が脳の指示を無視して自由に動き出す。
天と地と僕だけがこの惑星の住人だと煮えたぎる心臓が教えてくれた。                  驚きと期待が入り交わらせながら快感を与えてくる。引力と重力が僕の鼓動を高めてくる。今の僕は気分がいい。
                         ごめんね。
もう君のことなんてどうでもいい。

この瞬間だけは世界で一番僕が美しい。生命体を求めたこの惑星が一番納得できる人間像は僕だ。そう感じた。


知りすぎたのなら僕を殺して?
僕が生きてもいいの?

嘲笑うかのように  煽るように
心の中でこの惑星に問いかけてみる。

砕かれた硝子のように強く小さい星々と眩しいくらいの光を放つ月はいつまでも僕を睨んでいた。
                         一瞬、君が脳裏に張り付いてきたから
甲高い声で笑ってやった。

どんな繊細な言葉も似合っているようで裏を返せば着飾っているだけのようななんとも言い表せない経験をした。

またドアを開けた。
いつの間にか強風は止んでいた。          閉じた瞬間、無音になった。

  もう僕は自由だ。




僕の息は絶えた。
もうサイレンは必要ない。



"lost and found"

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