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ピンク色のホワイトデー

真っ白い箱を開けると、真っ赤なイチゴや宝石のように光るナパージュ、
ピスタチオ色のクリームをまとったカラフルなケーキ達が姿を現した。
ホワイトデーのお返しにと彼が買ってきてくれのだ。
「ぜんぶ食べていいからね!」
私よりも気持ちを高揚させながら、隣で彼が言う。
箱の中には、シュークリーム、みかんのムース、ピスタチオとラム酒のケーキ、
白苺のタルト、ピスタチオのフレジェ……全部で5個ある。
5個もあるのに、その中には、私の好きなショートケーキは無かった。
むしろ、全く興味のないケーキ達ばかり。
「どれも美味しそうでしょ?」
期待するような目つきで見つめてくる彼は、明らかに私が喜ぶ反応を待っている。
私も彼の目を見つめる。
(まずはお礼を言わなきゃ。気持ちが嬉しいんだから。)
「ホワイトデーありがとう!ケーキ嬉しいよ。」
……(でも、ちょっとわがまま言いたい)
「でも、私の好きなショートケーキが入ってないよ…。なんで…。」
すると彼は、
「あ、ハチコちゃんはショートケーキが好きなんだよね…!選ばなくてごめんね…」
と優しくなだめるように言い、シュン…とした表情を浮かべた。
その後、ジッと箱の中に視線を落とし、改めて自分が選んだ品達を眺めていた。
ケーキを選んでいるときも、そういう目でショーケースの中を覗いていたのかな。
贈り物には几帳面な彼のことだから、適当に選んだということはないのだろう。
私のために一人でケーキ屋に入り、真剣に選んでいたのだろう。
ズラリと並ぶケーキたちと睨めっこしたものの、結局好みのケーキを当てられなかった彼の不器用さが可愛くて、胸がキュンッとする。思わず顔が綻びる。
ショートケーキが無いなんて駄々こねてごめんね。全部おいしく食べるからね。

ホワイトデーの日、彼の不器用さは武器となり、私のハートを再び射抜いた。















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