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連載小説•タロットマスターRuRu

【第二話・屋敷】

駅を通り過ぎ、少し歩いたところで、角を曲がり細い路地へと入って行く。駅前は賑わっているが、一本道を逸れると静かで落ち着いた通りになる。
裏通りには、服やアクセサリーのお店、オシャレな飲食店がポツポツとある。休日は若者で賑わう通りだ。

それらの店の前を通り過ぎ、通りの先のT字路を曲がった先に大きな木が茂った屋敷がひっそりと佇んでいる。古い外観だが、外壁も庭も丁寧に手入れされている。まるで、魔法使いが住んでいそうな、可愛らしい外観である。アイアンでできた門扉を開けて、琉々は屋敷の中に入って行く。

【タロットマスターRuRu】

木製の扉には、そう書かれた看板がぶら下がっている。
中に入ると、アンティークの家具たちで整えられた応接室が広がり、吹き抜けの天井からはシンプルなシャンデリアがぶら下がっている。琉々は、土足のまま中へと進んで行った。

薄いカーテンを手で避けながら、奥の部屋に入ると、荷物を置いた。
壁に大きな本棚が並べられたその部屋の真ん中には、丸いテーブルがあり、椅子が二脚、向かい合って置かれている。

テーブルの上にはカラフルな箱が、いくつも積み上げられている。彼女の商売道具である、タロットカードやオラクルカードが入った箱だ。
そう。ここは、琉々が経営している金曜日限定のタロットリーディング店なのだ。いわゆる、占いの館みたいなものである。

薄暗い部屋の電気を点け、琉々は椅子に座った。ひんやりとした空気を吸い込んで、深呼吸をする。

「今週もお疲れ様。私」
自分に向かってねぎらいの言葉をかけながら、身体を背もたれに預けた。

天井が高いせいか、空調を付けていなくても、部屋の中は涼しさを保っている。庭の木々が風に吹かれ、ザワザワと音を立てていた。
琉々はゆったりとした姿勢でその音を聴きながら、目を閉じた。

瞑想にも似たこの時間を楽しむのが、ここへ到着してからのいつものルーティンなのだ。そうやって、一週間働いた疲れを、浄化させているのだろう。

目を閉じたまま少しの間、現実と夢の間のフワフワとした心地よさを楽しむ。

琉々は、特別霊感が強いわけでも、何かが見える体質というわけでもない。昔から何故か人の気持ち(心)が分かってしまうこと、周囲の空気が読めてしまう性質を持っている。敏感といえば敏感だが、それくらいの人間なら、沢山いるだろう。

琉々の祖母は、生まれながらの霊感体質で、客を一目見ただけで、考えていることやそのオーラなどが読めてしまうほどの凄腕だったようだ。その祖母は、今ではすっかり引退してしまい、海外で悠々自適な生活をしている。連絡といえばLINEや、たまにビデオ電話をかけてくるくらいである。

この場所は、その祖母から引き継いだものだ。

琉々は幼い頃から、この屋敷に出入りし、遊ぶようにタロットリーディングを覚えた。学生の頃はよく友達に披露したものである。
恋愛、人間関係、将来のこと…人の悩みなんて、どれも似たり寄ったりである。歳を取れば、これらの悩みに仕事と健康も加わってくるくらいだろうか。

当たる。と評判の琉々のリーディングであったが、人の心の中なんて知っても、疲れるだけである。高校卒業の時、友人と離れたのを機に、タロットリーディングは封印した。

【続き・第三話】

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