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積乱雲読#07『あちらこちらぼくら(の、あれからとこれから)』3巻

その昔、少年誌みたいな週刊の漫画雑誌に贔屓にしている作品がある時は、単行本が3か月に1回くらい出てたけれど、最近は媒体が多様化したりした影響で贔屓にしている作品が半年とか、下手したら年に1回しか出ないということさえある。

そんな中で、今回は連載BL作品で最も贔屓にしている、たなと作『あちらこちらぼくら(の、あれからとこれから)』の最新刊をアニメイト通販で購入して読んだ。(アニメイトで買うと、有料でオマケ冊子が付くのだ)

これを読むにあたって、1巻からこの作品を通しで読み直してみた。そして、いつも通り、「自分の生き方について考えるモード」に入ってしまった。

そう、この作品を読むと、いつだって「自分の生き方について考えるモード」に入ってしまうのだ。

例えば、2巻第9話で話題になっていた「恋愛対象」について、僕自身も思うことがある。僕自身は現在は男性と恋愛関係にあり、「リアルBL世界の住人」と名乗っているが、別に普通に女性のことも可愛いなと思うし、女性も恋愛対象になり得るタイプの人間だ。登場人物の園木も真嶋も自分の恋愛対象については「よく分からない」というのだが、僕も実際そんな感じなのだ。「ああ、この人好きだなあ」と思う人と、一緒にいるっていうそういう感じだ。

こんな風に、自分の人生と作中人物を重ねながら、いろんなことを考えてしまう。

話を作品に戻す。
1巻そして2巻では、「自分たちの関係を、どこまで人に話すのか?」ということが話題に上っていた。

園木も真嶋も、持ち前の生真面目というか、誠実さというか、そういう部分から、自分たちの関係をオープンにすることを選択する。

次に、職場の人に。これは主として2巻の園木の物語になる。
3巻でも、その後日談的なシーンが出て来て、今後どう転んでいくか展開を見てみたい。

そして、3巻ではさらにそこから家族に話すのかどうかという所が問題となる。本文では、「むずくね? かぞく」という真嶋の言葉から、「家族の前でレンアイの話をしたくない」という方に転び、結論として「尋ねられたら答えよう!」という結論に至る。これが真嶋の家族、そして園木の家族と両方について描かれ、それぞれ違った結果が描かれている。これもどう転ぶか今後に期待をしているところだ。

真嶋と園木の生活は僕にとって本当に理想的な世界の出来事だ。
高校の時の同級生と恋に落ちて、少し距離のある時期を経て、お互いの気持ちを確認した後に同棲し、お互いにきちんとした職に就きながら家事など助け合って共同生活をし、だけど一人の時間を大切にする部分もありつつ、時々遊びに行ったり旅行に至り共寝をしたりして、周りの友人たちにも祝福されつつ、職場の人や家族にも受け入れられつつ…という夢のような世界だ。

昔、腐男子としてこの世に生き始めて、まだ男性とお付き合いなどをしたことがない頃に、あるBL作家の方が「BLはファンタジーだから」という言葉を使っているのを目にしたことがある。ある時は「創作上のボーイズラブはいいけど、実際の同性愛は気持ち悪い」と言っている人がいた。

ただ、自分がこの世界に生きるようになって思うのは、「僕らはファンタジー世界の人間ではない。生身の人間なのだ」ということだ。

そして、この作品は、そういう「僕らが生身の人間として生きていく上で、躓くことを、無理なく、馬鹿馬鹿しくも辛くもならない距離感で描いてくれている。

確かに実際の世の中は、園木や真嶋やその周りの人たちが生きている世界に比べたら厳しいかもしれない。周りの人が今のところ誰も彼もそれなりに彼らのこと(=男が男と付き合うこと)について肯定している(または肯定も否定もしていない)のを見ると、それこそファンタジーワールドのように思えてしまう部分もあるのかもしれない。

だけど、例えばここで「受け入れられない人間からひどい迫害を受ける」とか「アウティングの問題で苦しむ」とかいう展開が来てしまうと、もう僕は苦しすぎてこの作品を読めなくなると思う。なぜなら、そこは僕らの多くが強く恐れる部分であり、かつ、大なり小なりツラい経験をしてきている部分だからである。

この点について作中では、「環境とか…性格とかによっては追いつめられる人もいるだろうし…でも逆に、そもそも話していいかどうか聞くこと自体どうなのかと思ったり」という、とっても微妙で、かつ正しい言葉で語ってくれている。僕らが生身の人間であることを、無視されていない、そんな気持ちになる。

だからこそ、途中で書いたように、3巻で提示されている家族の問題や、職場の問題がどう転んでいくのかを見届けたいのだ。おして、その時にまた、自分の生き方について考えてみたいと思う。

今後は不定期連載になるということで、次の巻が出るまでまた時間がかかりそうな予感はするけれど、僕は次を待っている。

家から家に戻ってきたんだな
最初は間違いなく「部屋」だったけど――
ここももう 俺の「家」だ……

『あちらこちらぼくら(の、あれからとこれから)』3巻 / たなと

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