わたしの靴紐が逃げた。
私の靴紐が逃げた。
今日は自分のご褒美に、ずっと欲しかった靴を買うことにした。
その靴は、
空を映したような気持ちの良い青色に、透き通るような白い紐が通っていて、
一目で気に入った私は、絶対買おうと心に決めていたのである。
コツコツお金を貯めて、
やるべきことを、しっかりやり終えて、
さっぱり清々しい気持ちになったから、
私としては珍しく、自分のご褒美に買いにいったのだ。
ようやく念願叶って、
その靴を購入した。
「お履きになって帰られますか?」
と店員さんに聞かれたけれど、今すぐにでも履いてしまいたい気持ちを抑えて、
「いえ、持って帰ります!」
といった。
なんだか、特別な場所で履きたくなったのだ。
その帰り道、少し寄り道して、近所の大きな公園に行った。
原っぱが気持ちよくて、風が爽やかで、
電線に遮られない、広い大きな青空が見える、お気に入りの公園だ。
私は、なんだかその公園で、あの特別な靴を履きたくなった。
「ここの大きな木の下で、履こっかな」
靴を取り出して、足をすぽっと入れる。
ぴったりだ。
…でも、靴紐を中々結ぶことができない。
「あれ?こんなに蝶々結びって難しかったっけ…?」
よーくみてみると、私の靴紐は、ウネウネうねって、
結んでも結んでも、スルリと解かれてしまっていた。
なんて面白い靴紐なんだろう!
私はますますその靴が好きになった。
「ねえ、仲良くしましょうよ、綺麗な靴紐さん。蝶々結びはお嫌い?」
そう言って、また靴紐を結ぼうとすると、
私の言葉が届いたのか、届いていないのか、
白い靴紐は、へびのように体をくねらせて、
いやだいやだ といっているように、
私の手から離れ、
ついには、青い靴からも、するする離れていこうとした。
結ばれることが嫌いな靴紐なんて、なんとも奇妙。
私はおかしくて、笑ってしまった。
それから白い靴紐は、自由を求めて、風に吹かれた。
青い靴が、ぽつんと残った。
いかがでしたか? 最後まで読んでいただきありがとうございます。 またいつでも遊びに来てくださいね。