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さよなら私の好きな男の子

訳もなく寂しいと思うようになったのは歳を取ったからなのか。それともこういうご時世だからなのか。

12月末、陽が暮れた時間。仲の良い男友達から連絡があった。
他愛もないLINEのやり取り。最後に会ったのは約1年前の渋谷。結局今年は会えなかった。


彼との付き合いはかれこれ15年程になる。出会いの場は当時国内最大手のsns【mixi】--彼は、マイミクであった。

今でこそマッチングアプリの普及やオンラインゲーム等でネットを介した出会いというのは身近になった様に思われる。
我々の年代から少し上の世代は出会い系全盛期(少し下火だったかもしれないが)に学生時代を過ごしている為、人によってはネットで知り合った人というのは犯罪に巻き込まれるのではないか……? という恐怖心を抱く人も少なくはない。
因みに私もそういう考えを持っている為、見知らぬ人に会う時は絶対に昼間である事。そして人の多い繁華街である事を徹底していた。と、少々脱線。

彼とは趣味のコミュニティで知り合った。マイナージャンルだった為、コミュニティの登録者数も少なく、参加している全員のページを回るにも時間が掛からなかった様に思われる。
その中でも彼とは音楽、漫画、映画--と、好きなジャンルが被っており、お互いのページを行き来していた。(足跡から自分のページを踏んだ人間を辿る事が出来たのだ)
暫くして彼からメッセージを貰った。晴れてマイミクとなり、日記にコメントを付け合う仲になった。メッセージのやり取りも頻繁に行った。これは偶然なのだが、彼とは当時住んでいた場所も近く、ある夏の日、彼と初めての対面をした。
1つ歳上。待ち合わせ場所に立っていた彼は、長い髪の毛を後ろに束ね、髭をたくわえていた。古着屋で購入した柄シャツは人が多い場所でも目立つ。
今考えてみても、随分歳上に見えた。

15年も付き合いが続くとは思わなかった。
趣味が合うだけでなく、お互いお酒が好きで朝方まで飲むことも少なくはなかった。彼が引っ越した先々に遊びに行くこともあったし、夜の寂しい時、長電話した。

喧嘩して暫く交流が途絶えた事もあったけど、何となく付かず離れずこの関係を続けてきた。

異性の友人は、同性の友人とは違う。
どちらかが恋愛感情を抱いてしまうと終わってしまう関係性だ。危うくて脆い。だから尊い。

--今年中に会えるかな?

--会えたらいいよね。

こういった状況だから県を越境する事は難しく、12月の寒空の下、私はラインを返す。

君と飲みに行きたいなあ。
いつもの様にお酒を飲んだら、馬鹿な話をしようよ。仕事の愚痴に、最近観た映画や読んだ本の感想を言い合う。時々昔話をして懐かしむ。
お互い歳を取った。長かった髪の毛は随分と寂しくなったね、と言ったら君は怒るだろうか?
私もあの頃の若さは無くなったよ。重力に負けてあらゆる所が弛んでいる。
あの頃--19、20歳の私達は、今でもこの関係が続くと予想したのだろうか?
どうしてあの頃より大人になった私が、今でもこの関係が続くと思ったのだろうか。

--俺、結婚したよ。

挨拶みたいに彼は言った。

君と、どういう関係になりたかったのかな?
身体の隙間を埋めた事もあったのにね。

--おめでとう。

そう言うしかなかった。
私達、仲の良い友人だから。

好きだったのかどうか分からなかった。
でも、結婚してしまった異性の友人は昔の様に付き合えない。
そう思ったら、とても悲しくなった。
君と会えないと思うと寂しくて辛い。


私、きっと、君の事を--

なんて、野暮な事を言う程私は若くないね。
でも、君の幸せを心から願える程大人ではないよ。
ただ、不幸になる事を願う程、子供でもない。
自分勝手だよね。
君がいつまでも、そのままで居てくれるものだと思っていたから。

最後に会った時を思い出す。終電の無くなった渋谷。
ひたすらお茶割りを飲んでいたね。
思い出すよ。思い出すよ。
声を。匂いを。体温を。

12月、風が冷たい。
もうすぐ今年が終わるよ。
君と会わずに。

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