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不都合な忍術

 隣国の発射した九発のミサイルのうち、その五発が我が国の排他的経済水域に着弾したと思われた。
 カメラの前に立ったの背広組の男は、指を舐めながら使い古されたノートをめくって定型文を口にする。
「これは国連安保理決議違反であり、決して許されるものではなく、厳しく非難し、抗議する」
 制服組の女が駆け寄り耳打ちをした。男は慌ててノートを捲る。
「さきほど不適切な発言がございました。訂正してお詫び申し上げます」
 記者倶楽部に動揺が走る。シナリオが変わると誰も質問を読み上げることができない。背広組の臨時会見は速やかに終了し、放送局は慌てて過去のミサイル発射映像を引っ張り出した。
「また出たわね。ちょっとSNSでもチェックしてみて」
 報道ディレクター映像スタッフの女はため息をつく。
「#忍法迎撃の術ニンニン のハッシュタグが乱れ飛んでます」
 報道フロアー音響アシスタントの男は得意げにスマホの画面を突き出した。女は舌打ちをしながら白馬に跨った男の背後でミサイルが発射される映像を加工する。
「新しい素材を送ってもらわないと、いい加減に茶番がばれる」
 加工映像が全国に流れた。
「これトマホークじゃないっすか?」
 官邸でミサイルの軌道を見守っていた面々も苛立ちを隠せない。今年に入ってミサイルが着弾しないのだ。軍拡増税の年明けだというのに、ミサイルは悉くレーダーから消えた。その都度SNS上では#忍法迎撃の術ニンニン が溢れる。SNS上の仕掛け人は特定されず、甲賀市、伊賀市は、ホームページを通じて当自治体とは一切関連がないと発表している。ふるさと納税は止む気配がなかった。
 官邸に怒号が飛び交う。あいつらはちゃんと撃っているのか。ここで危機感を煽っておかないとマズい。国民に負担をお願いするスタートの時期までには選挙はあると思うなんて言っちまったじゃないか。思うって言っただけだかんね。いよいよ軍拡って時にニンニンじゃねえよ。
「何発撃ってもいいからちゃんと着弾させろ」
 背広はノートを叩きつけた。
「昔、EEZみたいなアイドルグループいなかった?」
 ケンイチ氏はわけの分からんことを申す。拙者はどんぐりまなこにへの字口を結ぶ。晴天に無数のミサイル。ニントモカントモ。ニンニン。

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