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黒い糸
以前入院中の祖母の体験談について話してくれた敦也さんから、妹さん(ここでは仮にAさんとする)の体験談も聞かせて貰えたのでここで紹介したい。
1.黒い糸
ある夜、自室のソファーに横になり携帯を眺めていたAさんは突然自分の頬が一瞬何かに撫でられたような妙な感触を感じたという。
いつのまにか視界の端には〈黒い糸の塊〉のようなものがあり、それに気づいた途端頬に筆を滑らせたような感覚が走った。ホコリか何かだと思い手で払いのけたのだが、数秒経たないうちにすぐにまたその黒い糸が頬を撫でる。
何度かそれを繰り返していたが、ある瞬間それが〈髪の毛〉だと気づいた。急に恐ろしくなり「わっ!」と叫びながら飛び起きた。それ以降ピタリと頬を撫でる髪の感触はなくなったという。
後々になってこの〈頬を撫でる髪の毛〉が現れた数日前から継続的に自宅内でラップ現象のような酷い家鳴りと照明系統の不調が頻発していたことを思い出した。
2.女の顔
〈黒い糸〉の体験から二週間ほど経った頃だ。
自室のベッドで仰向けになり携帯画面を眺めていると突然両肩を誰かに強く掴まれた。そのまま何者かが背後からAさんを覗き込む気配があった。
Aさんはこの時背後にいる何かがあの時の髪の毛の主だと直感で感じたそうだ。
(見てはいけない)
咄嗟にそう感じたが何者かに肩を掴まれる感覚は、徐々に首へ移動してきた。
(見ない見ない見ない!)
と強く思いながらもAさんはそれの顔を間近で見てしまった。それはAさんがよく知っている顔だった。
生気のない真っ白な女性の顔がAさんの目の前に浮かんでいる。
当時Aさんが勤める職場におり、何かと問題になっていた派遣社員の女性の顔だったそうだ。
突然現れたそれにAさんは酷く驚いたが、咄嗟に以前TVで観た「心霊現象が起こった時は好きなものを叫べば良い」という論を思い出し、当時好きだった芸能人の名前を叫んだという。叫ぶと一瞬の間を置いてその気配と顔は消えたそうだ。
出典は不明だが、確かにこれに類似したエピソードを耳にしたことはある。これら一連の出来事が生霊のしわざであるとすると、心霊現象が持つのが〈強い負のエネルギー〉だとすれば打ち勝つにはやはりその対極にある〈生きた感情〉のエネルギーが必要なのだろうか。
心霊現象自体に焦点を当てることは怪談蒐集において当然のことだが、僕自身が強く惹かれるのは〈心霊現象〉の周辺にある生きた人間側の感情の動きだ。理解を越えた現象と対峙した人間が起こす行動やその瞬間に生まれた〈感情〉にこそ掬い上げるべき輝きがあるのだと考えている。
一見して滑稽にも思えるこの〈咄嗟の対処〉こそ、まさに霊現象と対峙した人間にしか出せない〈生者らしさ〉なのだと感じる。
話を戻してAさんと例の女性との関係性について少し触れる。
Aさんいわく、元々件の女性とは良好な関係を築いていたそうだが、日を追うにつれて徐々に女性の態度が横柄になり距離が生まれたのだという。
解雇される前にはその女性は社内メールを使ってAさんの悪口や攻撃的な内容を書いた長文を誰彼構わずに送りつけるようになり周囲を巻き込んでの騒動へ発展し二人の関係性は急速に悪化していったという。
最終的には会社としても女性の処遇を持て余し、結果として契約満了という形で解雇通告がなされたそうだ。
この体験以降も例の女性の気配を近くに感じることは何度かあったという。部屋に一人きりでいるにも関わらず、風呂場のドアノブが独りでに「カチャン」と音を立てて回る。
飼っている普段は大人しい文鳥が、何かにひどく興奮したように鳴き声を上げるなど。上記のほか取るに足らないような細かな異変も多くあった。
3.エレベーター
件の女性との関連は不明だが下記の体験は女性が解雇された一週間ほど経った頃に起こった出来事だ。
出先からマンションに帰ってきたAさんがエレベーターに乗ると後ろから男性がやって来て同乗することとなった。扉脇に立つAさんが〈閉まる〉ボタンを押すのだが、何度押しても扉が閉まらない。
戸惑っているとその内にエレベーター内の電気がまるで巨大な影を落とした様に暗くなった。
男性が驚きながら逃げるようにエレベーターを降りて階段へ向かったのだが、男性が降りた途端に扉が閉まり始めたという。
この出来事については、Aさんいわく例の女性ではなく男性に憑いた何かの仕業ではないかと考えているようだ。男性が端正な顔立ちをした実に女泣かせの色男、俗にいうイケメンであったためだという。
敦也さんは大きな偏見だと苦言を呈していたがその部分については僕も全面的に同意見である。
4.最後に
敦也さんがAさんにかけあって例のエレベーターの写真を提供してくれたので参考までに掲載しておく
(※詳細は分からないよう加工していることはご了承頂きたい)
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