月曜日のマーブル
朝陽がカーテンの隙間から漏れ入ってくる。
遮光カーテンなのに、なぜ・・・
一体誰が・・・
そう思いながら重たいまぶたを無理やり持ち上げると、目の前に巨大な顔が迫っていて「ヒャッ!!」という悲鳴とともに飛び起きた。
「犯人はお前か・・・」
2歳になったばかりの娘がキャッキャと笑いながら私を起こしに来たようだ。
カーテンを引っ張って私の顔面に日光ビームを浴びせた犯人が確定し、この娘を私のもとへ寄越した犯人も確定した。
娘を抱きかかえて1階へ降りていく。
「おはよ~」
「お、おはよ!やっと起きたか!」
なぜか爽やかな夫の朝の挨拶に、まだ寝ぼけ眼の私は「すいませんねぇいつもいつも」と言いながらボサボサの髪をなでつけながら大あくびをかました。
日曜日の朝、なかなか起きられない私に代わって、この日は夫が朝食を作ってくれた。
こういう事がたまにある。
普段は私の方がシャンと起きて夫を叩き起こすぐらいなのだが、仕事が立て込んで寝不足が続くと、このように朝いつまでも起きられない時がある。
私が寝過ごしていると、夫は私の分まで朝食を作って、娘に「ママ起こして~」と言いながら私が寝ているところにポンと置いて娘が私を起こしたところでニヤニヤ笑いながら階下へ引っ込む。
これが、たまにある我が家の日常だ。
夫が作ってくれたフレンチトーストをむさぼり、コーヒーをすすり、溜まった家事をやらなきゃ・・・と立ち上がった。
共働きで、子どもを保育園に預けながら働く日々で、平日は食事の用意と育児だけでいっぱいいっぱいなため、土日に洗濯と掃除を一気に片付ける。
これが我が家のやり方だ。もちろん夫も協力はしてくれるものの、私が「あれやって、これやって」と指示を出さないと自らは動かないのが玉に瑕だ。
スウェットのまま顔だけ洗って髪をとかし、掃除を開始したものの、どうも髪がバラバラと顔にかかってきて煩わしい。
「髪、伸びてきたな・・・」
と呟き、しばらくそのまま掃除していたのだが、だんだんと顔にかかってくる髪にイライラしてきた。
「ああもうっ!邪魔!!この髪!邪魔!!」
そう叫んでどうにか髪をまとめようと思ったが、ゴムではまとめづらい長さだった上に、子どもが生まれる頃からベリーショートにしていたため、そもそもヘアゴムが無かった。
昔使っていたものを・・・と探してみると、ゴムは見つからなかったものの、大量のシュシュが出てきた。ベリーショートにする前までは長い髪が自慢で、結婚式が終わるまでは、と伸ばしていたのだ。そして、気分に合わせてシュシュを選んで髪を結ぶのが好きだった。ちょっとしたお洒落だった。
シュシュで、この中途半端な髪をまとめるのは難しく、使えないや、と思ったものの、シュシュを見ていたら「また髪、伸ばそうかな」という思いが湧き出てきた。
子育ての邪魔になるから、と髪は常にショートにしていたが、娘も大きくなってきたし、そろそろ伸ばしても良いかもしれない。
今はシュシュは使えないけれど、そのうち・・・とシュシュは子どもに見つからないところに戻した。
この日は仕方なくバラバラと顔にかかる髪に舌打ちを連発しながら掃除を済ませたが、私がイライラしている様子に夫が気付いて声をかけてくれたので「髪が中途半端で邪魔。イライラする」という話をした。
案の定「切れば?」と言われたが「伸ばそうかなと思って。まぁ今度ヘアバンドでも買ってくるわ」と返した。
翌日、夫が小さな紙袋を持ち帰り「はい、これ。使えるか分かんないけど、髪留めるのに良さそうだったから」と私に手渡した。
開けてみると、中には大理石のようなマーブル柄がお洒落なバンスクリップが入っていた。
私の中途半端に伸びた髪でも、ハーフアップにすれば留められるかな、と思って早速つけてみた。思ったよりも良いかんじに髪がまとまり「おー・・・!」と声が漏れた。
「ヘアバンドなんて言い出したから、いつも顔洗う時とかに使ってるようなやつ買ってくるつもりなんじゃ・・・と思ってさ。もうちょっとお洒落なものなら外でも使えるだろ」
夫はドヤ顔で娘と一緒に「ママ、綺麗だね~。似合ってるね~。さすがパパのセンス!」と笑っていた。
「ありがとう!」と言って夫に抱きつこうとしたら、娘が仲間外れにされたと思ったのか癇癪を起こしそうになったので、2人一緒にギュウッと抱きしめた。
職場にも夫にもらったバンスクリップをつけて出勤してみると、同僚に「あれ、今日はどうしたの?良いねぇ、それ」と言ってもらえた。
私はそれを聞いて早速ゴキゲンな気分になり、単純だなぁと思いつつも、その日は気分上々で仕事もはかどった。
髪をまとめると、気も引き締まるようで、前向きで明るい気持ちになれた。
自分の髪になど頓着している余裕もなく、ボサボサな髪のまま日々を過ごしていたが、ちょっとお洒落なヘアアクセサリーをつけるだけで、こうも気分が変わってくるのか、と不思議な気がした。
お昼休みに別の同僚と食事をしている最中に「バンスクリップ使うなら、両脇の髪の毛をちょっとねじって留めると、一気にお洒落感が増すよ~。やってあげよっか」と言われ、やってもらって鏡を見たら、ちょっとしたパーティぐらいならこのまま参加できそうな髪になっていてビックリした。
「すご!!」と感動しきりの私に、同僚は「そんなに喜んでくれると私も超嬉しいよ~」と笑顔で喜んでくれた。
その髪型のまま娘を迎えに行ったら「ママかわいいね~」と言ってもらえて、保育園の先生たちにもチヤホヤされ、私はすっかり良い気分になってしまった。
夫が買ってきてくれた小さなバンスクリップひとつが、こんなに笑顔と幸せをもたらしてくれるなんて、単純だけど、幸せなことだなぁと思った。
娘が「私もほしい」と言うので、今度小さくて可愛いバンスクリップを買ってあげよう、ついでに自分用にももう少し種類を増やして、シーンや気分で使い分けようかな~と思いながら、娘をつれて帰途についた。
昔はシュシュ集めにハマっていたけれど、今度はバンスクリップ集めにハマりそうな私。
ロングヘアになっても活用できそうなので、楽しみが増えてワクワクしている。
あなたの毎日に笑顔がプラスされますように…。 9am
https://www.9am.co.jp/smp/item/hab122.html