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#9 always曇り空

北京首都国際空港でのトランジットからおよそ12時間弱。
そろそろ飛行機にも飽き始めたころ、離陸のアナウンスが流れ、ミズノと私を載せた飛行機はドイツのフランクフルト国際空港に到着した。
時刻は2018年12月16日17時15分。
時差が生じているので日付は日本を出発した日と変わらない。
人生ではじめて感じる時差に、日本から遠く離れた地に来たんだなと嬉しくなった。

飛行機を降りて、キャリーケースをピックアップし、まず取り掛かったのはSIMカードの差し替え。インターネットがなければ電車も調べられないし、地図も見られない。
日本を出発する前に、ヨーロッパ全域で使用できるSIMカードをAmazonで購入しておいた。容量は12GBにしたが、電車や地図を調べる程度しか使わなかったので、かなり余裕を持てた。旅行は何が起こるか分からないので、ギガ数は多めに持っておいた方が良さそうだ。
SIMカードを差し替え(このとき日本で使用しているSIMカードを失くすとまずいので本当に注意)、スマホを使用できるように簡単な設定を終え、いよいよフランクフルト国際空港を出る。

といっても、事前に調べたところ、駅は空港直結なので、そこまで難しくはなさそうだった。外はすでに暗い18時25分。アジア人女性2人でヨーロッパの夜を練り歩くのは危険が伴うので、日が暮れてからは極力出歩かないようにしようと決めていた。
ヨーロッパ初日、ドイツで外食をしてみたい気持ちもあったが、身の安全のために空港から寄り道せずホテルに向かうことにした。

空港直結のFrankfurt Flughafen Regionalbahnhof(「フランクフルト空港近距離駅」という意味らしい、まったく読めない)駅から、特急とか快速っぽい電車に乗り、Konstablerwache(コンスタブラバッヘ)駅で乗り換え(やはり読めない)。2駅分乗ってFrankfurt Ost(フランクフルト東)駅で下車し、10分ちょっと歩けば、最初の宿泊先「a&o Frankfurt Ostend」にありつける。
電車の乗車時間は約20分ほど、フランクフルト東駅からホテルまではほぼ一本道なので簡単にたどり着けそうだった。
唯一難しかったのは、電車のチケットの買い方と駅名の見分け方。
電車のチケットはクレジットカードを差し込んで買うのに四苦八苦した。この欧州旅行までクレジットカードを使ったことがなかったし、切符の買い方は英語案内もあったが終始「これで合ってるのかな……?」と不安になった。それも最初だけで、どこの国に行ってもすぐに慣れて地元住人のようにそつなく購入できるようになるから人間の適応力は素晴らしい。

それよりもドイツの駅名がすんごくややこしい。英語のようにぱっと見で読めないし、なんだかどの駅名も似ているし、「次は○○駅~~」という案内が本気で聞き取れない。ドイツ語特有の鼻から抜ける音というか、「ッガフ」みたいな発音(?)が聞き取りをさらに難しくさせた。
コンスタブラバッヘ駅の駅名を見逃さないように「これコンスタブラバッヘかな!?……いやなんか綴りが微妙に違う!?」とミズノと間違い探しをするかの如く電車内に掲示される駅名を血眼で凝視した。

無事にフランクフルト東駅に到着し、ホテルに向かって人を殺しそうな顔つきで威嚇しながら歩いていた。ヨーロッパでは旅行者をターゲットとしたひったくりが多いと聞いていたし、平和とされる国で生まれ育ったため旅行者と分かりやすい見た目の時は特に危機感を持って過ごさなければと思っていた。
今思えば、私のほうが変質者に見える振る舞いだったと思う。付き合わされたミズノはかわいそうだ。ホテルの部屋に着いた頃には、長時間のフライトによる疲労と、不安と、緊張で張り詰めていた糸が緩み、お風呂に入ってその日はすぐに就寝した。


翌朝、目を覚ましてカーテンをあけると、絵に描いたような、それはもう素晴らしい、

どんよりとした曇り空が拡がっていた。

植えられている街路樹の見た目がなんだかいつもと違うし、車は右側通行だし、視覚に入る文字はドイツ語ばかりだし「あ、私は今ドイツにいるのか。夢じゃなく、現実なんだ」と改めて実感した。
今回の旅行は貧乏旅なので、予約したホテルはどこもスーパーが近いことを優先させた。食事はスーパーの惣菜やパンで済ますと食費がだいぶ浮く。a&o Frankfurt Ostendも、歩いて数分のところに大きなスーパーがあった。
身支度を整えて、ミズノとスーパーに向かう。外に出ると、日本の12月よりもだいぶ寒く感じた。日によるが、日中なのに氷点下で凍えてとても寒かった。時々、パラパラと雨が降った。ヨーロッパのなかでも、ドイツは特に曇りの日が多いらしい。実際、滞在していた期間にドイツで太陽を見た記憶はほぼない。常に曇っているので、高い建物は先端が雲の中に隠されていて、朝は靄がかかっている日もあった。
雨も降りやすく、小雨は日常茶飯事。日本では少し雨が降るだけで傘をさす人が多いけど、ドイツではほとんど傘を持っている人に会わなかった。さすがに傘いるだろうという雨量の時でさえ、ダウンコートのフードを被って歩いている人がたくさんいた。
傘を持ち歩かずに多少濡れながら歩いていても白い目で見られない。傘を持ち歩くことがストレスな私にとっては、これだけでドイツは良い国だと思った。

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