大学に入り半年が経った頃、周りの友人達に彼女ができ始めた。彼女が一度もできたことのない僕は劣等感を感じていた。

「お前も早く女くらい作れよ。」
飲み会の際の友人の一言がきっかけだった。
「実は昨日から彼女が出来たんだ。」
酒のせいか自分だけ彼女がいない焦りのせいか、しょうもない嘘をついた。急いで嘘だと打ち明けようとしたが、タイミングを逃してしまった。

その日から僕は嘘をつき続けることになった。友人達に聞かれる度に架空の彼女の話をし続けた。

ある日、雑誌を買いに本屋に出かけた。レジが混雑していたので並んでると、入り口から友人が入って来た。目が合ったので手を振るが、なんだかよそよそしい態度を取られた。

「本屋でいちゃついてんじゃねえよ。」
昨日出会った友人から声をかけられた。なんのことだと戸惑っていると、レジに並んでた僕の隣に寄り添う様に立ってる女がいたという。冗談かと思ったが、友人の態度から本気の様だった。

その日から僕が彼女と一緒にいるのを目撃した友人が現れ始めた。運転している僕の助手席、歩いてる僕の隣…彼女が現れるのは決まって僕が一人の時で、必ず僕の隣に現れた。

僕をからかってるのかと思ったが、友人達の話はどれもリアルで辻褄が合っていた。

見えない彼女が怖くなって来た。僕が変な嘘をついたせいかも知れない。友人達に打ち明けるか悩んだが、今更打ち明けるのはかっこ悪すぎる。悩みに悩んだ挙句、彼女と別れたことにすることにした。

彼女と別れたと伝えると、友人達は励ましてくれた。申し訳ない気持ちにはなったが、嘘をつき続ける日々から解放される安堵感の方が強かった。その日はいつもよりぐっすり眠れた。

夢を見た。黒髪で背の低い女が僕の前に寂しそうに立っていた。女は涙を流しながら僕に握手を求めた。握手に応じた僕の目から涙が溢れ出た。

目が覚めると僕は泣いていた。その日から彼女が目撃されることは無くなった。僕は時々喪失感で涙を流しそうになる。

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